しほちゃんは、ういてる#0
夏休みがせまってきた。中間テストがおわった教室ではクラスメイト同士で、テストの答え合わせをする声が聞こえる。
「現国どうだった?」
「自己採点で60点」
ゆっくりと窓側の席をみると、しほちゃんが透き通るような薄茶色い長い髪を気だるそうに触っている。
しほちゃんは教室でういてる。
彼女はトイレもお弁当も移動教室も、いつも一人でいく。笑っている顔をみたことがない。クラスのみんなが話かけても、返事はいつも単語だ。会話が長続きしない。コミュ症なのかもしれない。そんなことが続くようになってから、しほちゃんに話かける生徒はいなくなった。
いつだったか、私がしほちゃんを、いつもお弁当を食べているグループに誘おうとしたら彼女は、周囲に聞こえないようにちいさいな声で言った。
「みんなと一緒にいたら、あたしのミステリアスで孤独なブランディングが崩れちゃうからいい」
わたしはその言葉を聞いて心底驚いたが、彼女の哲学はとてもいいと思った。しほちゃんは今日もきれい。