MASAKO
個室内に青白い煙が充満している。テーブルには枝豆、ホッケの開き、イカの一夜干し、チャンジャなどのつまみが並び、それで泡盛をぐいぐいと飲む。タバコをパカパカと吸いながら、3人はくだらない話に花を咲かせていた。
「今日は私が奢るから」
突然正子がそう言い放った。
この言葉の意味も考えず、僕と幸子は即座に泡盛のお代わりを頼んだ。
それが、いけなかった。
僕は泡盛をぐいと飲み干し、グラスの氷をカラりと鳴らした。どこの席からか、歓喜の声があがっているのがかすかに聴こえた。
………
小さい頃、当時仲良しだった女の子のさりちゃんが、ある日草むらで僕に「いつか結婚しようね?」と照れながら聞いてきた。僕はそれにうんと答えると、さりちゃんはスカートを捲り、パンツを脱いでその場にしゃがみ込み股を開くと「見てもいいよ。」と言った。僕は僕の体にはないそれを近くでまじまじと見た。なるほど女の子はこういう風になっているのかと思っていたら、さりちゃんは自分の指を使って色々と詳細を見せてくれた。からだの不思議に感心はしたけれど、それ以上何とも思わなかった。さりちゃんは一通り見せびらかすと「ひじき君のも見せて。」と言ったので、うんいいよと僕は答えてすっぽんぽんになった。
あの頃の僕はすっぽんぽんになる事に全く抵抗がなかった。家の中でも隙さえあれば、すっぽんぽんになってみせた。小学校に入学した兄がランドセルを背負って笑顔で立つ横で、すっぽんぽんで決めポーズをかましている僕の写真が今でも残っている。
そんな僕がいつから裸になる事に抵抗を持ち、おとなしいお利口さんになったのか。そこは今のところ謎である。
実は僕はあの時、さりちゃんに嘘をついた。
何故なら僕は光GENJIと結婚すると決めていたからだ。生粋のゲイだったのである。だからさおちゃんのそれを見ても、欲情などするはずがない。きっと女の子のそれをまじまじと見るのは、これが最後であろうと思っていた。
………
幸子のそれを、目の前にしていた。
幸子の部屋で、幸子も僕もすっぽんぽんになり、2人は絡み合っている。
幸子は「ひじき君見ないで!」「ひじき君のが当たるから動かないで!」と騒いだ。
「だまれ。」
正子は幸子に一喝した。
正子の顔は真剣だ。
正子はカメラを構え、ポーズを次々に指示してきた。
カシャ。幸子のそれが迫る。
カシャ。幸子の豊満な胸に潰されそうになる。
カシャ。幸子が叫ぶ。
もっと色々と頼んで、酒も豪快に飲むべきだった。
居酒屋で放った正子の言葉の意味を理解した僕は、幸子の股を潜りながらちくしょうと呟いた。
まさかまた女の人のそれを見る日が来るとは思わなかったが、やはり微塵も欲情は湧いてこなかった。しなしなのものを見せてしまって、幸子には申し訳ないと思った。そして僕はこの出来事によって気がついてしまった。
すっぽんぽん、恥ずかしくない。
直前は抵抗していたが、正子が「つべこべいわず脱げよ。」と言い近づいてきて僕のズボンとパンツを同時に勢いよく脱がせた瞬間に、僕の裸に対する羞恥心はどこかへ飛んで行ってしまったらしい。
幸子の羞恥心もその時に飛んでいってしまったのか、その後、日を変えて何度か撮影が行われたが、僕も幸子も当然のように極めてナチュラルにすっぽんぽんになった。支持された通りに絡み、的確に表情を変え、自らを表現した。
正子は極めて真面目にシャッターをきり、表現したい作品に立ち向かっていく。
これが芸術の領域…
いつの間にか僕は正子に身を委ね、彼女の作品の世界に溶け込んでいった。
自分の顔がいいとは自覚していた。けれどその他に僕には自信なんてかけらもなかった。
そんな、世の中のなんの役にも立たない僕が、そのままで作品になってしまうだなんて。思いもよらない衝撃だった。
正子は、僕の中にある何もない灰色の空に、突然の雷を落としたのだった。
雷の後には雨が降る。
正子は、それを知っていたのだと思う。
つづく