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求めるほどに遠ざかる
「わたし、人を成長させるという事が苦手なんです。どうしたって気になっちゃって、手を出したくなるんです。何をやるにしたって、そう。どうしても色々な事が気になってしまって、そうやって回り道をしてしまう。
そんな、回り道ばかりしている人間が、人を成長させるなんて無理なんじゃないかと思っているんです。」
。
休憩室でお昼ご飯を食べながら、職場の人の悩み話を聞いていた。
今日は3日前に仕込んだ酵素玄米を弁当に入れていて、それがものすごい粘り気で餅のようなので、一口分を箸で拾おうにもなかなかうまくいかない。
モチモチなそれと、職場の人の悩みをききながら格闘していたら、
「わたしって、本当に…」
と職場の人が言った瞬間に、箸が折れてしまった。
すると、
「いや、山澤さん、運がいいですよ。箸が山澤さんの厄を請け負って折れてくれたんですよ。いやぁ、運がいいですねぇ」
と。
それを聞いて、僕は、この人は人を成長なんかさせなくて良い、と思った。
いくらでも手を差し伸べればいいし、
それをもっと、大いにやればいい。
人を成長させる人は世の中に確かにいて、すごくわかりやすくって、僕も尊敬する。
この職場の人のように、人をフォローして愉しくさせる人も世の中には確かにいて、それはわかりやすいものではないかもしれないけれど、
僕はそういう人が好きだし、そういうのが好きで、それを求めている人は、きっとごまんといると思う。
色々なカタチや色があって、カッコいいデザインや、鮮やかな色は人の目を引く。
そう在る人の苦しみも、またあるのだと思うけれど。
。
僕は酵素玄米を弁当に持って行くほどに健康に気をつけていて、最近はフィットネスにもたまに通うようになった。
やはり40才を過ぎて、カラダの大切さを身に染みて感じるようになり、50代を迎えてもなおハツラツとして過ごしたいと未来を考えるようになった。
先日、フィットネスのプログラムに参加した際に、顔に汗をかいたのでタオルを顔に当てたら、自分の息が臭いことに気がついた。
とても驚いた。
タオルで顔全体を覆ったことで、自分の息がタオル内に篭ったのだ。
健康に気を遣っているのに息が臭いなんて酷過ぎると思った。
神様って、なんて残酷なんだろう。
健康に気を遣っていないのに、口が臭くない人はごまんといるのに。
。
人を成長させる事に憧れを持ちつつも、それは自分には向いていないという事を知っていることと、
健康でありたいと願い、それを志しているのに口が臭いこと。
それって、もしかしたら、似ているかもしれない。
折れた箸を見つめながら、それを職場の人に話してみようかと考えたが、それはやめておこうと思い口をつぐんだ。
求めるほどに遠ざかる。
人も、自分自身も、ね。
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