【第45回】未成年者⑦ 人権についての限定されたパターナリスティックな制約 「性交同意年齢」という概念について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話
形式的意味の刑法と実質的意味の刑法
まず、「刑法」といったときに、多くの場合、形式的意味の刑法、つまり六法全書に「刑法」とある全264条からなる法律を指しています。これまで見てきたように、刑法の内容は、犯罪と刑罰に関する法律ですから、犯罪と刑罰を内容としている法律は、「実施的意味」の刑法にあたります。よく例として挙げられるのは、会社法の第8編は「罰則」が第960条以下に規定されていて、取締役の特別背任罪をはじめ、贈収賄罪などの規定が置かれています。
形式的意味の「刑法」だけを見て、「日本においては会社における取締役の背任についての罰則が手ぬるい、世界的にみて遅れている」という人はいないと思います。
形式的意味の憲法と実質的意味の憲法
形式、実質の区別は、憲法でもあります。これまで、あえて憲法と略さずに「日本国憲法」という言い方をすることがありましたが、国家の組織・作用を規定するもので、特別の形式で存在するものを「形式的意味の憲法」と言います。日本のように憲法という名称を付けていることもあれば、ドイツでのように、「ドイツ連邦共和国基本法」という名称の場合もあります。
これに対して、およそ国家の構造・組織・作用の基本に関する規範を「実質的意味の憲法」と言います。形式的には普通の法律と一緒ですが、国会法や内閣法、裁判所法も、内容的には実質的意味の憲法といえる部分も存在します。
役所のセクショナリズムの問題
刑法に話を戻します。
時として「日本の性交同意年齢は低すぎる」という主張がありますが、これは、形式的意味の刑法の規定を指しています。このような主張をする人たちがよく挙げる外国の例は、同世代どうしであれば犯罪が成立しないとされていたり、法定刑が軽くなっていたりしますから、日本では児童福祉法や青少年保護育成条例でカバーされているようなケースです。その意味で「性交同意年齢」という言葉を用いるのであれば、日本の保護年齢は18歳ですから、外国と比べるとむしろやや高いと評価できます。外国の法制度については、ここ数年、多くの研究が発表されていますので、そちらを参照していただければ明らかだと思います。
ところが、刑法の改正は法務省の法制審議会というところで議論されるのですが、問題は、児童福祉法は厚生労働省が所管しているということです。役所の役割分担は、よく言えば、謙譲の美徳で、お互い、餅屋は餅屋ですから、ということでお互い口出しをしない、ということなのかもしれませんが、悪く言うと、所管事項以外は責任を持てないので、自分のところで完結させようとする、というおそれがあります。そうなると、木を見て森を見ずの弊害が懸念されます。このようなセクショナリズムをただすのが政治の役割です。法務省所管の刑法だけをみるのではなく、児童福祉法の規定が適切かなど、国会では双方の法律の守備範囲についての議論が望まれます。
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