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【第44回】未成年者⑥ 人権についての限定的なパターナリスティックな制約 性交同意年齢について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

性に関する自己決定権

青少年保護育成条例には、有害図書問題とは別に、ほとんどの条例に「淫行罪」が規定されています。

条例ですから、規定の仕方は自治体によってそれぞれですが、18歳未満の青少年の性行為に対してパターナリスティックな制約を課すものと言えます。

性行為そのものについての憲法上の位置づけが書かれている教科書はあまりお目にかかったことはないのですが、妊娠中絶の権利、「リプロダクティブ権」などが性的自己決定権などとして憲法13条の幸福追求権として認められるのではないかなどの議論があることからも、性行為自体は人格的自律権の内容であって、憲法上の人権として位置付けられるべきものではないかと思われます。

ちなみに、フランス法では、性的自由(la liberté sexuelle)が表現の自由や集会の自由と同じく公的自由の地位を獲得したという評価もあるようです。★

児童福祉法

条例とは別に、児童福祉法に児童を淫行させる行為は禁止されていて、このような行為に対しては、「10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定されています(児童福祉法第34条第1項6号、第60条)。

児童福祉法と都道府県条例は重なる部分があると思われますが、罰則については、児童福祉法よりも軽いもののはずです。

第14条第3項 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

地方自治法

これらの規定は、青少年の性的自己決定に対する制約ですが、2022年4月まで、女性の婚姻年齢は16歳でしたから、民法上の婚姻年齢よりも高い年齢に設定されていたことになります。刑法上の保護年齢としてみた場合、比較法的にみても、やや高いといえます。実際、高校在学中に出産し、社会で活躍している女性もいらっしゃいますから、児童福祉法や自治体の条例の適用は慎重であるべきと考えられます。

最高裁も、児童福祉法の「淫行」について、児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうとしています。そのうえで、児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又はこれに準ずる性交類似行為だと定義しています(最決平28.6.21)。

ただ、いずれにしても、未成年者自身を処罰するのではなく、相手方ないしは淫行をさせた者を処罰することとしています。

刑法の議論との関係

このことと関連して、刑法で、性交同意年齢について引き上げるべきかどうかについての議論があります。刑法では、13歳未満の者については、性交についての同意はできないものとされています(刑法第177条)。この問題について、刑法学者の間でも比較法的研究が盛んですが、憲法の人権論の視点から考えてみたいと思います。

★上村貞美『性的自由と法』4頁(成文堂・2004年)

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