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【第77回】経済的自由権・総論 #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話


1. 総論

これまで、思想・良心の自由(19条)・表現の自由(21条)・信教の自由(20条)・学問の自由(23条)という、人の精神活動に関する自由、精神的自由について紹介してきました。

これらに対して、憲法22条と29条は経済的自由を規定したものだとされています。

第22条 第1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
第2項 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第29条 第1項 財産権は、これを侵してはならない。
第2項 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
第3項 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

日本国憲法

精神的自由の中でも、表現の自由を規制することは原則としてできないと考えるべきであり、規制することができるとしても、かなり厳格な基準をクリアしなければならないことについてもみてきたところです。

きわめて単純化すれば、これと対極にあるのが経済的自由、ということになるでしょう。19世紀的な国家モデルから、20世紀的な国家モデルに移行するとともに、かつては最も重要な権利と考えられた所有権をはじめとする経済的自由は、社会権の保障のために一歩退く場合があるからです。このことは、職業選択の自由などを定める憲法22条1項には「公共の福祉に反しない限り」という限定がついていたり、憲法29条2項では財産権の内容が「公共の福祉に適合」することが求められていることに現れています。

2. 居住・移転の自由

22条1項は、「居住、移転及び職業選択の自由」という、いささか性質が異なる自由を一緒に保障しています。職業選択の自由が経済的自由であることは疑いないのですが、居住・移転の自由は、現代においては違う側面が考えられます。

第1に、個々人が身体の拘束を離れて自由に移動することができることを内容としていますから、人身の自由としての側面があるということです。

第2に、個々人が自分の選択する所に移り住み、あるいは旅行などでさまざまな体験をすることは、その人の人格形成に大きく影響するでしょうし、集会や集団行動に参加するための移動の自由などを考慮すれば、精神的自由としての側面もあるといっていいでしょう。

にもかかわらず、同一の条文で規定されているというのは、歴史的背景抜きでは説明できません。

封建的支配体制の下では、厳格な身分制のもとに、農民などは、一生特定の土地に縛り付けられるということが封建体制の本質的部分でした。近代市民革命によって、このような莊園を基盤とする封建的土地支配体制も打ち破られることになります。農民が自由労働者になり、移転の自由を獲得し、居住の自由を獲得していくわけですから、職業選択の自由と居住・移転の自由は一連の事柄だった、というわけです。

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