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【第79回】財産権① #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話


1. 財産権の規定のしかたについて

かつて所有権を筆頭に、神聖不可侵とうたわれた財産権ですが、社会経済の変化とともに、政策的な制約を受けるものと考えられるようになったことはすでに見てきました。日本国憲法も、29条1項で「財産権は、これを侵してはならない」としながらも、2項、3項では「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」、「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」としています。

この規定の仕方から、憲法解釈にあたっては一ひねり必要になります。なぜなら、2項が、「財産権の内容」は法律で定めるとしているからです。このことから、1項は何を定めたものなのかということが問題とされています。

どういうことかというと、①財産権の内容は法律で定められる→②法律で定めた財産権を1項が保障しているのだ、と読んでしまうと、1項は法律の成果を保障したにすぎないことになってしまいます。これでは、法律が財産権についていかようにも定めることができ、「憲法違反」と評価される事態は起きないことになりそうです。

2. 制度的保障の理論

そこで、学説は一般的に、1項は①各人が現に有する財産権を保障するとともに、②私有財産制の制度的保障を定めたものだと解釈しています。主観的な人権規定とともに客観的な制度も規定したのだというわけです。

この、「制度的保障」という考え方は、法律を制定する際に、憲法の想定する制度を創設・維持すべきで、その制度の本質的内容(中核部分)を侵害することは禁止される、というものです★。

そして、私有財産制の中核を生産手段の私有制にあるとし、社会主義ないし共産主義体制を実現することはできない、と考えられています。

★ 宮沢俊儀『憲法Ⅱ〔新版〕』106頁(有斐閣・1971年)

3. 森林法違憲判決(最大判昭62.4.22)

ある財産権の内容を法律で定めたところ、その規定の仕方が憲法違反であるとされたものがあります。

普通の所有権であれば、民法256条1項により共有者は分割請求をすることができます。3人で3等分ということも可能です。

ところが、森林法旧186条は、共有森林につき持分価値2分の1以下の者に対しては、共有物分割請求権を否定していました(分割請求できるのは、持分価格の過半数が必要であるとされていました)。

父から森林を2分の1ずつ生前贈与され、2人で共有していた兄弟がいたのですが、森林経営をめぐり対立することになります。一方が分割を望んだのですが、かつての森林法の規定では分割ができないことから、森林法186条は憲法29条に違反するとして、民法256条1項に基づいて共有森林の分割等を請求したというものです。

最高裁は、分割請求を否定する森林法の立法目的は「森林の細分化を防止することによって森林経営の安定化を図ること」と認定しました。しかし、その目的を達成するために採られている分割制限という手段は、共有者間で、共有物の管理等をめぐり意見の対立等が生じたときは、森林経営が暗礁に乗り上げ、かえって「森林の荒廃という事態を招来する」ではないかなどとして、合理性・必要性を「肯定することのできないことが明らか」だとして憲法29条2項に違反するとしました。

財産権の内容を法律で定めるに際しても、目的が合理的で、それに対して採られる手段にも合理性・必要性がなければならない、とするものです。

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