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香りの好みは文化にめちゃくちゃ依存する。ということを考えてみた
こんばんは、クラフトビア子です。
東京・上野で2月25日までやっている「和食展」を観に行き、公式ガイドブックも買ってきて楽しんでいたところ、衝撃的な事実を知ったので今晩は香りの好みについて、考えてみたいと思います。
ちなみにこの展示、とってもおもしろかったです。食に関心のある方はぜひ!
大好きな松茸の香りは主に3つの化合物からなるらしい
日本人が愛してやまない松茸。秋に松茸が店頭に並ぶと値段をチェックし、高いわね…とあきらめたり、お手頃な中国産やカナダ産で手を打ったりと、松茸の存在に一喜一憂しているのはビア子だけではないはずです。
食卓に松茸が登場したら家族も喜ぶ。おいしい日本酒でも買ってきて、松茸ごはんや焼き松茸を楽しみたい!とわくわくする人はたくさんいるのではないでしょうか。
その魅力はなんといっても香り。松茸ごはんを炊けば、キッチン中に松茸の香りがひろがって何とも幸せな気分になりますよね。
あの独特の香りは、化学的には以下のように分析されているようです。
(松茸には)主要な香気成分として3種類の化合物が存在することが分かっています。 アルコール化合物である炭素数8の1-オクテン-3- オールは、マツタケから初めて発見された物質で別名“マツタケオール”とも呼ばれており、 いわゆる“キノコ臭”を有していますが、濃度によってはフルーティーな香りを演じ、シイタケ、マッシュルームなど、キノコ全般に含まれているこ とが知られています。また、同じ炭素数8のcis-2- オクテン-1-オールもキノコのフルーティーな香りに寄与することが分かっています。 (中略)芳香族アルキル・エステル化合物であるメチルシンナメート(ケイ皮酸メチル)は、爽やかな樹脂香・バルサム香を有し、マツタケ特有の香りに最も寄与していることが分かっています。
『北海道産マツタケの主要香気成分 ―子実体における部位別の化学組成― 』より
松茸の独特の香りは主に3つの化合物の賜物のようですが、特にその香りに寄与しているケイ皮酸メチルは、いちごやバジル、最近人気の花椒、タイムなどにも含まれているのだとか。
松茸とは似ても似つかぬスパイスやフルーツにも含まれているというのは驚きですが、ハーブについてはそう言われれば共通する香りがあるかも…?(多分気のせい)
松茸の香りは万葉集の時代から愛されてきた
おいしい食べ物にも含まれている香りを持つ松茸。その香りは古くから日本人を魅了してきました。
縄文時代から土器で形を模写され、万葉集には
高松のこの峯も狭(せ)に笠立てて盈(み)ち盛りたる秋の香のよさ
県民だより奈良 はじめての万葉集
と詠まれているほどです。松茸と名前こそないものの、「松」「笠」「香」と並べば松茸のことだ、と思わずにはいられません。
松茸大好き日本人は、松茸が好きすぎるあまり、●谷園の「松茸の味お吸いもの」というインスタントスープをこよなく愛しています。ちなみにこちらは、松茸の香りを構成する2つの化合物を人工的につくって添加しているそう。1964年から販売されているロングセラー商品であり、いかに日本人がこの香りが好きなのかがわかります。
ちなみに我が家ももちろん大好きで、切らさないように常備しています。お吸い物としてももちろんおいしいですが、うどんやパスタとオイルであえるときに味付けとしてつかってもおいしく、めちゃくちゃ便利です。●谷園さん、本当にありがとうございます!
ショック!松茸の香りが欧米人は嫌い?
松茸が好きすぎて、中国やカナダ、トルコ、最近はブータンからも輸入してまで松茸を楽しみたい日本人の一人であるビア子ですが、「和食展」の公式ガイドブックを読んでいたら衝撃の事実が。
「蒸れた靴下のにおいのするキノコ」として、欧米人はどうやら松茸を軽蔑していたらしいのです。(和食展 公式ガイドブックより)
まじか!!!
ごはんと一緒に炊いて
「わーい今晩は松茸ごはんだ!」
「いいにおい、幸せー!」
「日本酒飲みたい」
「焼き松茸もおいしいよねー」
みたいな感じでテンション高く楽しんでいた松茸の香りが、蒸れた靴下のにおいとは!(ちょっと悲しい)
松茸はヨーロッパにも自生しているが、現地の人にはその香りが好まれず、日本のように珍重されることはなかったようなのです。
慣れ親しんだ香り、良いとされる香りが好きになる
ある日本人の海外生活でのエッセイに、外国駐在時にみそ汁をつくっていたら近所からクレームが来た、というエピソードがありました。
どうやら味噌の発酵の香りがあたりに漂って、不快を示されたようなのです。
日本では考えられないクレームにびっくりすると同時に、冷静に考えたら、日本でご近所の欧米人にチーズフォンデュを換気扇の下で料理されたら、ひと昔前ならクレームもありえそうと思いました。
ブームになったラクレットチーズのレストランって、かなりチーズな匂いですもんね…。
私たちも欧州のチーズの香りに不快を感じることがあるし、パクチーの香りがカメムシみたいだから無理、という人も一定数います。
専門家の解説を読んでいても、ある香りを「良い」「悪い」と判定するのは極めて難しいのだとか。
生まれ育った文化で「良い」とされる香りを好きになるのが、私たちのデフォルトの嗜好性なのかもしれません。
香りは記憶に結びつきやすいですよね。
子どもの頃の食卓の香り、夏休みにかいだ夏草のにおい、乾いた洗濯物のにおいなど。
松茸を良い香りとするか、悪い香りとするかも、文化が育んできたものなのかもしれません。
香りは学習や好奇心で、後天的に好ましくなる
未知の香りであっても、その香りが好まれている文化があり、その文化に親しみを持てば、その香りを好ましく思うようにもなります。
欧米で評価されていなかった松茸が、最近では現地でも支持されるようになったそう。(和食展 公式ガイドブックより)
それは和食が世界的に認知され、支持を受けるようになったからでしょう。
トリュフの近縁であるイボセイヨウショウロが日本にも自生していたという論文があるのですが、フランスのように珍重していなかったのも、かつての日本人が嗜好として魅力を感じなかったからなのかもしれません。
日本には食材になりうる黒トリュフが2種存在する (森林総合研究所・2018年論文紹介)
フランス文化に触れ、トリュフのおいしさに目覚めた日本人は、今後実は身近に生えていたトリュフを珍重するようになったらおもしろいですね。
香りの嗜好性は奥深く、おもしろい!と思ったビア子でした。
ではまた!