SF笑説「がんばれ!半田くん」 ㉔ つばきちゃんのふるさと、笠山がうまれる
「いよいよ、僕たちの旅も終わりに近づいてきた。最後は、数10万年〜数万年前に噴火した阿武火山群の噴火の現場にいってみよう。」
マグネシウム王子が次の時代に行くように僕たちを促した。そこで、僕たちは再び時間を超えるタイムワープに入った。
「ここは、さっきまでと同じ、萩の町ができる場所だわ。あそこに田床山や指月山が見えているもの。」
山美は自分の大好きな々が見えているので、自分がどこにいるかすぐにわかった。僕は、田床山のおかげで半田地区が見えなくて、少し残念だったけど、さっきまで確かにあったから、半田地区の石灰岩は安泰だ。でも、笠山が見当たらない。萩六島もない。どうしたんだろう?
「ねえ、マグネシウム王子。どうして、笠山がないの?私のふるさとよ。あなたは、私を連れて、地球の誕生から現在までの旅に連れてきてくれたのに、なぜまだ笠山がないの?信じられない。ひどいわ、ひどいわ。」
笠山つばきちゃんは、僕が感じている以上に、笠山がないことに動揺し、ひどくがっかりしている様子だった。
「つばきちゃん、もう少しだけ待ってくれない?今から、萩-阿武地域のあちらこちらで、火山がどんどんできてくるよ。そして、笠山はそのハイライトとして、最後に登場するんだ。真打ちはいつも最後だろ?」
「そうか笠山はトリなのね。安心したわ。」つばきちゃんは嬉しそうに言った。
「笠山って鳥だったの?明神池で、お魚に餌をあげようとすると、飛びかかってくる鳥が、笠山?」
「そうか、笠山の形、昔の市女笠だといわれていたけど、本当は紅白歌合戦のトリに出てくるロングドレスのイメージなのね。」
僕に続いて、山美もボケてくれた。こういう受けはありがたい。
「まあまあ、みんなでボケてくれてありがとう。とにかく、しばらく周りの火山噴火の様子をみてごらん。」
マグネシウム王子がそういうので、みんな周りを静かに見渡すことにした。すると、東の方で、ドカン!北の方で、ドカン!あちらこちらで、火山の噴火が始まった。
「小さな火山があちらこちらでできてきたわ。でも、桜島や有珠山のように何度も同じ場所で噴火したりしないわね。」
「つばきちゃん、よく気づいたね。萩ジオパークの火山は、その場では一回しか噴火しないで、地下のマグマは次の噴火場所を別の場所にもとめて、移動するんだ。だから小さい火山がたくさんできるんだよ。」
マグネシウム王子がそう話していると、いままでよりひときわ大きな噴火が起きた。火口から噴石がたくさん飛び出し、火山の周りに降り積もった。そして、火口からはドロドロと溶岩が流れ出していった。流れ出た溶岩は、山の斜面を下り、平野にたどり着くと今度は川に沿って、どんどん流れていった。真っ赤だった溶岩は、次第に表面が冷えて赤黒くなり、そのうち完全に冷えて固まり黒い岩石になっていった。
「あれは、伊良尾山の噴火だね。なかなか大きい噴火だったね。溶岩は、川の水と同じように、地形の低いところを求めて流れていくので、最後は川に沿って流れていったよね。流れていった溶岩の様子をもう少し観察してごらん」
マグネシウム王子に促されて、僕たちは溶岩をじっと見つめていた。すると、冷えた溶岩の表面に亀裂が入り、次第にその亀裂が広がっていった。亀裂と亀裂は途中で繋がり、ギザギザの模様を作り始めた。その亀裂は、広がるだけじゃなくて、溶岩が芯まで冷えるにしたがって、溶岩の奥深くまで切れ込んでいった。
「溶岩はどんな形になっていったか、分かるかい?」
マグネシウム王子に聞かれるまでもなく、僕は自信満々に応えた。
「僕知ってるよ。伊良尾龍くんに聞いたもの。これは、六角柱の羊羹だよね。」
「半田くん、羊羹じゃなくて、溶岩!そして、これは柱状節理でしょう?畳ケ淵や龍鱗郷などで見たでしょう?忘れちゃったの?」
伊良尾龍くんに教えてもらったのに、すっかり忘れていた僕は、つばきちゃんに怒られた。つばきちゃんは、火山のことになると僕に厳しく当たるんだ。
「つばきちゃん、そのとおり。柱状節理だよね。溶岩が冷えて固まって岩石になる過程で割れて六角柱状になるんだよね。半田くんも六角柱だけは合ってたよ。」
マグネシウム王子は、つばきちゃんに感心しつつ、半田くんにあきれながら、答えを教えてくれた。
「さあ、笠山の登場だよ。萩湾の方向をみてごらん?」
マグネシウム王子に促されて、僕たちは萩湾の方向を食い入るように見つめた。
そのときである。萩湾のあちらこちらで、ドッカーン、ドッカーンと火山が噴火を始めた。そして、大島・櫃島・肥島・羽島・尾島・相島の6つの島々が次々と誕生した。
「うっそ〜。笠山がまだないじゃない。萩六島が生まれたのに、まだ笠山がな〜い。どうして?」
つばきちゃんが悲しそうに叫んだそのときだった。
ドカーン!笠山のあたりで、水柱が上がった。水柱は次第に灰色の水に変わり、噴石が飛び出してきた。白く濁った水面からこんどは火柱が上がると、真っ赤に焼けた溶岩が流れ出してきた。溶岩が海水に触れるとシューッと音を立てて、水蒸気が吹き上がった。新しく噴き出した溶岩は、先に流れ出て冷えてきた溶岩を乗り越えて、次々と流れ出ていった。そんな噴火を繰り返して、海底の火山はみるみる大きくなり、海面から顔を出して、島になっていった。笠山の誕生である。
「わ〜い。ついに笠山が噴火したわ。私のふるさと。私の友達。笠山が生まれたのね。うれしい〜!」
笠山つばきちゃんは、うれしさのあまり、なんども飛び跳ねた。笠山は、僕らの時代には本州とは陸続きだけど、生まれたばかりの笠山は海に浮かぶ島だった。
「あれ?笠山って、島だったんだ。車じゃいけないね。これじゃ、萩六島じゃなくて、萩七島だね。」と僕が言うと、山美がすぐに反応した。
「えっ?萩納豆?食べたい。食べたい。美味しいのそれ?納豆大好き!」
納豆好きの山美には、七島(ななとう)が納豆(なっとう)に聞こえたようだ。そういえば、みんなで見島にいったとき、見島牛が七頭いるとはなしていたら、見島牛の納豆?と聞こえて、みんなが爆笑したっけ。山美は相変わらずだな。と僕は思った。
「火口からはもう溶岩が出て来ないけど、今度はスコリアがどんどん火口から出てくるよ。見ていてごらん。」
マグネシウム王子が言うとおり、溶岩はもう出尽くしたみたいだ。代わりに、火口からぼんぼんと石が飛び出してきた。石は空中でガスを吐き出して、穴ぼこだらけになっていった。これがスコリアだ。白っぽい石は軽石と呼ばれるけど、スコリアは黒っぽい。だけど、笠山のスコリアは空気に触れて酸化して、赤茶色になっている。2020年東京オリンピックと同じで、サンカすることに意義があるようだ。
「火口の周りにスコリアが溜まるとこんもりした山になるんだ。なだらかに流れた溶岩の上にスコリアがこんもり積もった形が市女笠に似ているというので、笠山という名前がついたんだよ。溶岩とスコリアの二層構造のおかげだね。」
マグネシウム王子の説明のおかげで、笠山の名前の由来が分かってきた。でも、石灰岩ができたとき、半田という名前の由来を説明してくれなかったのは、マグネシウム王子が石灰岩に興味がなかったからなのかな?カルシウムくんも教えてくれなかったから、きっと知らないんだな。僕はそう思って、諦めることにした。
「笠山はその後、海岸沿いに流されてきた土砂が溜まって砂州をつくり、本州と陸続きになるんだ。その土砂には風化に強いシリコンがたくさん入っているんだよ。」
シリコンさんは、笠山が島じゃなくなる理由を、シリコンの自慢話で説明した。悪い球体ではないけど、ちょっと自慢話が多いのが玉に瑕かな?でも、ついに笠山が登場して、つばきちゃんが元気になって、うれしそうで良かったよ。僕は安心した。安心したら、だんだん眠くなってきちゃった。