SF笑説「がんばれ!半田くん」 ⑳ 石灰岩とマグマ
暖かい地球に戻った僕たちは、海辺の砂浜で砂のお城を作ったり、おいかけっこをしたりして遊んでいた。そんな様子を遠くで眺めていた守護球体たちは、僕らを呼びに来た。最初にマグネシウム王子が口火を切った。
「みんな、超寒い地球をよく乗り越えたね。あの寒さも地球にとって必要なことで、あの異常な寒さを経験することで、これまで目に見えないくらい小さな生き物しかいなかった地球に大きくて色々な種類の生き物がたくさん生まれるようになるんだ。つまり生き物の大進化が始まるんだ。地球上に酸素が急激に増えたことも理由の1つと言われている。君たちの時代から5億年ほど前には、様々な生き物が沢山地球上に生まれたんだ。」
カルシウムくんも、さらに続けた。
「そうして生まれた生き物の中には、僕たちカルシウムと二酸化炭素を使って、炭酸カルシウムという殻をもった生き物が生まれたんだ。この生き物の遺骸が降り積もって石になったのが、石灰岩なんだ。」
「えっ?僕は、カルシウムくんと二酸化炭素から生まれたの?」
半田くんは、びっくりして聞き返した。
「そうだよ。石灰岩は、カルシウムくんと二酸化炭素が結びつくことで、地球上のいろいろな所で生まれるんだけど、半田くんが生まれたのは、広々とした海のど真ん中の深い深い海で生まれた海底火山の上だよ。」
こんどは、マグネシウム王子が、カルシウムくんを制して、話しかけてきた。
「ほら、あの遠い海に新しく生まれた島を見てごらん。あれは深い海の底で噴火した海底火山だよ。その火山が成長して、今海面に顔を出したところだよ。新しい火山島の誕生だね。」
「わ〜、かっわいい。笠山みたいに小さな火山ね。素敵だわ。」
笠山つばきちゃんは、火山、それも小さな火山に目がない。
「つばきちゃん、海の上に見えている島は小さいけれど、あの火山は深さ5000mほどの海底まで続いているから、火山全体の高さは富士山よりも高いんだよ。どちらかというと非常に大きい火山なんだ。」
「大きい火山なのに、小さくみせているのね。なんて奥ゆかしい火山なんでしょう。好き好き好き。。。」
笠山つばきちゃんは、すっかり虜になったようです。
その隣で僕は、自分が「スキスキスキ」と言われた気持ちになって、少し顔が赤くなりました。ふふふ。。。
「あの火山は、しばらくすると噴火をやめて、静かな島になるんだ。そうすると、近くの海から、サンゴ虫や紡錘虫がやってきて、棲みつきはじめるよ。」
カルシウムくんが生き物の話をすると、山美が大きな声で叫んだ。
「きゃー!虫〜!きらいきらいきらい。。。」
僕は、山美の「キライキライキライ」は、それほどイヤじゃなかった。どことなくホッとした気分がしたけど、そんな素振りは見せないように気をつけた。
「あの火山の上にサンゴやフズリナが棲んで、サンゴ礁を作るんだ。何世代にも渡って住み続けると、そのサンゴ礁はとても厚くなって、石灰岩へと変わっていくんだよ。あの火山島の上にできたサンゴ礁こそ、半田地区の石灰岩の元になったものだよ。このサンゴ礁は、海のプレートと一緒にゆっくりゆっくり動いて、日本の萩にたどり着くんだよ。あとで、みんなで見に行こうね。」
カルシウムくんの説明を聞きながら、僕は、小さな火山島の上に棲みついてくれたサンゴたちに手を合わせたくなった。
「よくぞ、この小さな島をみつけて、棲みついてくれたね。ありがとう。僕のご先祖さまたち、ありがとう。」
僕はお金を持ってなかったので、お賽銭代わりに、ポケットに入っていた飴玉をサンゴたちに向かって投げてみた。飴玉は、サンゴたちには届かず、海の中で溶けてしまった。
「半田くん、地球の海の成分が予定より甘くなってしまったじゃないか。環境破壊だよ。持続可能な開発を目指すSDGs違反だね。気をつけてよ。」
僕は、真面目なマグネシウム王子に叱られたが、環境破壊するくらいなら、自分で食べればよかったと、少し後悔した。すると、カルシウムくんが助け船を出してくれた。
「半田くん、心配しなくていいよ。石灰岩は、環境破壊どころか、地球の環境にとってとっても大切な存在なんだ。僕らカルシウムは、二酸化炭素と結びついて、石灰岩を作るという話はしたよね。石灰岩は、地球上に大量にあった二酸化炭素が沢山蓄えて、空気や海水の中の二酸化炭素減らしてきたんだよ。」
「半田くんすごいじゃない。二酸化炭素が減れば、温室効果ガスが減って、地球温暖化が防げるのよ。すばらしいわ。」つばきちゃんが、めずらしく褒めてくれた。
「そう、石灰岩は、地球を救うとても大切な石なんだよ。半田地区の石灰岩も大切にしてね。半田くんが石灰岩に惹かれる理由も、そんなところにあるのかもしれないよ。」
カルシウムくんにそう言われると、僕が長年不思議に思っていた、石灰岩への想いにそんな秘密が隠されていたことに、感動した。やっっぱり石灰岩は偉いんだ。
「でも、その石灰岩を支えているのは、火山よ。火山の大切さも忘れないでほしいわ。」つばきちゃんがそう指摘すると、マグネシウム王子は、意外なことを教えてくれた。
「半田くん、つばきちゃん。石灰岩と火山は、地球の環境のバランスを取るために、どちらも大切な役割があるんだよ。」
「そこから先は、僕が説明しよう。」とカルシウムくんが手を挙げた。
「石灰岩が出来るときには、空気中や海中の二酸化炭素を使ってくれる。そうすると、地球上の二酸化炭素は減って、地球は暖まらずに冷えていく。一方、火山は、噴火するときに、二酸化炭素やメタンガスを放出するので、地球を温める役割をする。つまり、石灰岩は地球を冷やす役割、火山は地球を暖める役割をしているんだ。どちらかだけだと、みんなが体験した極寒の地球になるか、猛烈に熱い地球になってしまうんだよ。石灰岩と火山がバランス良く活躍することで、生き物が快適に暮らせる地球が護られているんだ。」
つばきちゃんは、カルシウムくんの言葉に納得したようだった。
「マグネシウム王子の言葉を聞いて、分かったわ。私や山美の好きなマグマは、地球を暖かくする。半田くんたち石灰岩は、地球を寒くする。どちらが勝っても、人間を含む地球の生き物にとって、幸せではないわ。お互いに譲り合い、調整することで、ちょうどいい地球の環境を作ることが大切なのよ。これからも、仲良くして、みんなにとって幸せな世界を作りましょう。」
「つまり、僕は地球を冷やす扇風機、つばきちゃんや山美は地球を暖めるストーブなんだね。」僕はこのとき、僕やつばきちゃんや山美が、今回の不思議な旅に選ばれたのかをやっと理解できたような気がした。
「エアコンなら、両方できるわ。」山美の言葉は僕の感動をすぐに吹き飛ばした。
「さあ、自分たちの役割が分かったところで、そろそろ君たちの町、萩へ戻ろうか?さあ、みんなそれぞれの守護球体につかまって、飛んでいくよ。」
マグネシウム王子の掛け声とともに、僕はカルシウムくんに、つばきちゃんはマグネシウム王子に、山美はシリコンさんに捕まって、飛び立った。シリコンさんは、不幸なことに、再び山美のお尻につかまっている。しばらくすると、山美のおならでシリコンさんが再び気絶してしまったのは、だれもが想像した通りだった。