SF笑説「がんばれ!半田くん」 ④旅が始まる
「半田くん、じゃあ手始めに、この道の先にあるあの暗闇に一緒に飛び込もう。」
「えっ?怖くない?真っ暗だよ?」
「真っ暗だから、暗闇って言うんだよ。笠山つばきちゃんは、もう飛び込んでいるはずだよ。」
「ほんとう?つばきちゃんが、あの暗闇の中に?ようし、助けにいくぞ!待っててね。つばきちゃん。えいっ。」
僕は意を決して暗闇に飛び込んだ。ほぼ同時に白い球体も飛び込んだみたいだ。
「うわぁ〜、落ちていくぅ〜 つばきちゃん、助けて〜!」
「おいおい、つばきちゃんを助けに行くんじゃなかったのかい?」
「僕が困っていると、つばきちゃんはいつも助けてくれたもん。助けて〜」
僕はそう叫びながら、暗闇の中を果てしなく落ちていった。暗闇の中をどんどん落ちていく一人と一球は、しばらくして暗闇の中で止まったことに気づいた。
「あっ、止まった」
「どうやら止まったみたいだね。ここが僕たちの旅の出発点だよ。あそこをみてごらん?」球体のカルシウムくんは、目の前でくるくる回っている渦を指した。
「あれは何?瀬戸内海のうず潮みたいだけど、ちがうね。」
「あれは、46億年後に半田くんが暮らすことになる地球をつくる渦だよ。地球だけじゃなくて、太陽やその周りを回る惑星の元になる渦なのさ。」
「早く、行ってみようよ。どんなところなのか、早くみたくて、ウズウズするよ。」
「若いのにダジャレ好きだね。まあ、僕も嫌いじゃないけどね。」
半田くんとカルシウムくんは、遠くに見える渦の方へ一直線に向かいました。
「あれ〜?渦しか見えないよ。太陽もなければ、地球もないじゃない。」
思っていた姿でないことに落胆した僕は、ちょっと口を尖らせて文句を言った。
「そうなんだ。これは太陽やその周りの惑星を作る元になったガスやチリが集まった渦んだよ。長い時間が一瞬で過ぎるようにして見せてあげるから、良く見ておくんだよ。すぐ太陽ができてくるから。」
カルシウムくんは、そういうと、僕に向かって、楽しそうにウインクをした。
「なんて可愛くないウインクなんだ。」と僕が思っていると、みるみるうちに、渦の様子が変わってきた。
「渦がどんどん中心に集まってきて大きな塊になってきたよ。大きな塊は渦の中心にあって、強い光を放っている。まるで太陽だ。」
僕は思わず息を飲んで叫んだ。
「当たりだよ。良く分かったね。あれが出来たての太陽だよ。渦の中の大半のガスとチリをつかって、エネルギーの塊“太陽”が生まれたのさ。」
そう話すカルシウムくんの球体の表面には、生まれたての太陽が放つ強い光が反射して、キラッと光って、まぶしかった。真っ赤に燃えた巨大な太陽の周りには、ガスとチリの渦がぐるぐる回っている。まるで土星の周りにある輪のようだけど、それよりずっと壮大で、厚さは薄いけれど、広大な広がりをもっている。
「太陽が生まれて残ったガスとチリでできた渦をしばらく見ていてごらん。また面白いことが始まるよ。」
カルシウムくんは、ワクワクする心を抑えきれないように目を輝かせて言った。
「あっ、渦の中にいくつかの塊ができてきた。さっきまで均等に太陽の周りをぐるぐる回っていたガスとチリが、あちこちで集まり始めてる。すごい、すごい。あちらこちらで丸い玉のようなフワフワのたこ焼きがどんどん出来てる。」
僕は驚きのあまり、たこ焼きが3個入るくらい大きく口を開けたまま叫んでいた。
「半田くん、あれは地球を始めとする惑星の赤ちゃんができつつあるところだよ。太陽から3番めのあの小さな塊へ僕らも行かないと、地球の仲間になれないまま、宇宙を漂いつづけることになっちゃうよ。さあ、急いで行こう!」
カルシウムくんはそう言うと、半田くんの手を握り、太陽から3番目の”たこ焼き”じゃなかった、地球の赤ちゃん目指して、一目散に飛び立った。
地球の赤ちゃんは、近づくにつれて、どんどん大きくなっていく。でも、その姿は僕の知っている地球とはほど遠いものだった。山もない海もない。そもそも固体でさえない。それはガスとチリの集まりにすぎなかった。ガスとチリがたくさん集まった密度の濃い部分が中心にあって、その周りには次第に薄くなったガスやチリの帯が広がっている。ガスとチリの“丸くて平たい綿あめ“?そんな感じだった。
「あのガスとチリはどんどん衝突して、小さな鉱物ができて、鉱物と鉱物が衝突して、ちょっと大きな石粒になる。地球の姿になるまでには、何度も何度も衝突して合体していくんだ。そうして次第に大きな塊になっていくんだ。僕たちも、このガスとチリの中に飛び込んで、衝突・合体に参加するよ。そうら、飛び込むぞ。半田くん、覚悟してねぇ。」
こうして、僕とカルシウムくんは、地球の赤ちゃんらしい、ガスとチリの塊の中に飛び込んでいった。それから、どうなったかって?それは、メチャクチャ痛かったに決まってるじゃないか。とってもしんどい経験をしたから、あとでゆっくり話をしてあげるよ。