SF笑説「がんばれ!半田くん」 ㉓ ああ、日本海!
「山美、君の大好きな約1億年前のマグマ活動に満足したかい?そろそろ次の時代に出発するよ。」
マグネシウム王子が、山美に立ち上がるように促した。山美は、目の前に繰り広げられたマグマ活動に感動して、しゃがみこんで動けなっていると、みんなが思っていたが、本当は、握り潰した藁納豆からこぼれ出た納豆を必死に拾って食べていたのだった。
「山美、忙しそうだけど、そろそろ出発するよ。場所は同じ萩だけど、時代を一気に800万年ほど移動するよ。それぞれの守護球体につかまってね。これからタイムワープに入るよ。いいかい?」
マグネシウム王子の呼びかけに、笠山つばきちゃんが応えて、マグネシウム王子を肩に乗せた。半田くんはカルシウムくんを肩に乗せ、山美はシリコンさんを大きなお尻に貼り付けた。
「さあ、いくよ。」
僕たちの周りは、光の流れに変わり、サーッという静かな音に包まれた。光の流れが緩やかになり、静かな音も聞こえなくなったとき、僕たちは、約1800万年前の萩の位置にいた。
「半田くんたち、着いたよ。周りを見渡してごらん。さっきと風景が違うよね。どう思う?」
マグネシウム王子の問いかけに、僕たちは目をキョロキョロさせて、あたりを観察した。
「あっ、海がある。日本海だ。萩の近くに海ができている。」
あの懐かしい日本海の青々とした海が僕たちの目の前に広がっていた。
「そうなんだ。1億年前の萩では太平洋側に海はあったけど、日本海側には海がなかっただろう?あの頃は大きな大陸の一部になっていて、日本は島国じゃなかったんだ。この日本海はまだできたばかりで、だんだん大きくなるから見ていてご覧。」
マグネシウム王子の言う通り、日本海はまだ小さくて、海の向こうに大きな陸地が迫っていた。ところが時間が経つうちに、その陸地はどんどん離れていき、霞んでいって、ついには見えなくなった。
「この大きくなった日本海に溜まった土砂が須佐の畳岩になるのね。須佐みことくんも連れてくればよかったわね。半田くんはいじめられるけど。」
つばきちゃんが言うとおり、日本海ができたことで、須佐の美しい縞模様の地層ができることは、美怜小学校で指月先生から教わった。須佐くんは意地悪だから、一緒に来たらやっぱりいじめられる気がするけど、それでも須佐くんに見せてあげたかったな、日本海ができるところを。僕は、そう思った。
「日本海ができるとき、地下ではマグマが動きだすんだよ。こんどは、シリコンさんがやや少なくて、僕たちマグネシウムの仲間が活躍するんだ。」
マグネシウム王子が説明している間に、須佐のあたりで火山が噴火した。この火山はどんどん上昇して、火山の本体はどんどん削れていって、地下のマグマだった「はんれい岩」が地上に顔を出していた。日本海に溜まった砂や泥は、このマグマの熱で焼かれて「ホルンフェルス」という固い岩石になったようだ。こうして、須佐の畳岩が完成した。
須佐での火山噴火に続いて、こんどは萩沖の日本海で水しぶきを上げて、火山が噴火した。見島が誕生したんだ。
「見島は玄武岩でできているって、指月先生が言ってたから、たしかにマグネシウムが花崗岩や流紋岩よりたくさん入っている。でも、シリコンさんが一番多くて、カルシウムくんだって、結構はいっているんだ。マグネシウムはシリコンやカルシウムほどは入ってないけど、マグネシウム王子は火山については詳しいから、仕方ない。黙って聞いていてあげよう。」
僕は、むやみに反論しないで、大人の対応をすることにした。
見島は、海の上に見えている島の範囲はさほど大きくはないけど、海底に裾野が広がる大きな火山らしい。来る日も来る日も噴火して、だんだん大きな山体になっていった。この大きな火山の麓には日本海の海水がぶつかって、海面に向かってプランクトンを巻き上げている。現在の見島付近でたくさんのお魚が採れるのは、このときの火山の噴火のおかげなんだと、このとき僕ははじめて実感した。
「日本海は、半田くんたちの時代の2000万年前から1500万年前くらいにできた、地球の歴史では比較的若い海なんだ。この海ができたおかげで、日本は島国になったんだよ。島国になった日本の周りには、寒流や暖流が流れ込み、いろいろな種類のたくさんのお魚が、日本の周りで採れるようになった。お寿司なんて日本独自の文化が生まれたのも、日本海ができたおかげかもしれない。」
マグネシウム王子が真面目に説明してくれたので、僕は真面目に応えた。
「韓流も、日本海ができたおかげだよね。団流は、BTS(防弾少年団)かな?」
「寒流と暖流だよ。韓流と団流じゃない。確かに日本海ができたおかげで、日本と韓国はお互いに独自の文化を育むことができたけどね。」
僕がとっておきの知識を披露すると、マグネシウム王子はカチンときつつも、構わず話を続けた。
「島国になった日本はどんどん隆起して、高い山ができるようになった。急峻な山から流れる水は、ヨーロッパの硬水とは違って柔らかい軟水なんだ。魚を中心とした和食にぴったりのな軟水もこの活動的島国になったからこそかもしれない。」
僕は石灰岩も好きだけど、美味しいお魚や日本食が食べられる日本そして萩が大好きだ。そんな僕たちのふるさとの環境を作ってくれた日本海にももちろん感謝している。ありがとう。日本海。僕は、マグネシウム王子の説明を半分も理解していなかったけど、日本海に感謝したい気持ちは本当だった。ジオは本当にいろんなものを僕たちに残してくれたんだなぁ。そう思って、美しい日本海をいつまでも眺めていた。