SF笑説「がんばれ!半田くん」 ㉑ 萩が、生まれる!
僕たちは地球を半周くらい飛んできて、大きな陸地のそばにやってきた。
「ほーら足元をみてごらん♪あれがあなたの日本〜♪ (キロロ”未来へ”を改編)」
シリコンさんにそう促されて、下を見てみると、大きな陸地が見えてきた。
「あれは、アジアやユーラシアの大陸の昔の姿よ。日本の位置は、あの大陸の端っこに当たるの。でもこの時期には、21世紀に日本の大地となっている場所の大半はまだ海の底なのよ。」
シリコンさんがそう説明した場所には、美怜小学校に掲げてある日本列島の地図でみなれた、日本の島々の形はなくて、そこには大きな大陸とその隣に広々と広がる海があった。
「最初は、海しかなかった地球に火山島が生まれ、だんだん陸地が増えてきたのをこれまで見てきたよね。あの大きな陸地は、そうして増えてきた陸地の集大成でもあるんだ。」
マグネシウム王子は、これまで僕たちが見てきた、地球の歴史を振り返るように説明した。
「そう。陸地が増えるには、そこにマグネシウムやナトリウムなどたくさんの球体が集まってきているんだけど、なかでもたくさん集まったのが、シリコンなんだよ。陸地にはシリコンがたくさん詰まっていて、ぼくらの仲間が支えているんだ。だから、陸地をみると本当に嬉しくて嬉しくてたまらないんだ。」
シリコンさんはそう言いながら、陸地をみてホロホロと涙を流しました。
「さっきは、ここが日本だと説明したけど、本当はまだ日本の大半はここには無いんだ。日本がこれからできる場所という意味なんだ。そういうわけで、君たちにはこれから日本ができ始める様子を見てもらおうと思うんだ。」
マグネシウム王子がそう説明したので、僕は空を見上げた。
「半田くん、どうしたんだい?空を見上げるじゃなくて、海をみていてよ。」
「だって、日本が生まれるだから、お空からイザナギとイザナミの二人の神様がやって来るんでしょう?」
「半田くん、それは神話の中のお話だよ。本当は、半田くんの大好きな石灰岩が活躍するんだ。まぁ、見ていてご覧なさい。」
マグネシウム王子は、おバカな半田くんを諭すように言いました。
「ほらほら、半田くん!あちらからサンゴ礁を乗せた海底火山がやってきた。半田くんの大好きな石灰岩が、動く海底に乗って海底火山と一緒に日本に到着したところだよ。ようこそ、日本へ。」
カルシウムくんが、ウキウキして叫びました。
「あっ?本当だ。僕たちがさっき見たサンゴ礁は地球を遠い彼方にあったのに、地球を半周も回って、もうここまで来たんだ。すごいなあ。もうすぐ、日本のあたりに到着だね。」
僕は半田石灰岩の元となるサンゴ礁が、長い旅を終えて、もうすぐ萩の位置に到着することに、感動した。しかし、もうすぐ半田石灰岩に会えるという僕の期待を裏切るようなことが突然起こった。陸地に到着する直前に、サンゴ礁と海底火山が突然、海の下に沈んでしまったのだ。
「カルシウムくん。僕の大切な石灰岩が海の中に消えちゃったよ。どうしよう。海の中で溶けて、藻屑になったらどうしよう。防水コーティングしてあげてよ。」
僕は、とても心配になり、カルシウムくんに頼んだ。
「大丈夫だよ。心配しないで。サンゴ礁は、海でできたんだから、海水で溶けたりはしないよ。サンゴ礁は一旦海底に沈んだあと、そこで海底にたまった砂や泥と一緒になって、陸地を作っていくんだ。ほら、よーく見てごらん。陸地が少しずつふえていってるだろう?」
カルシウムくんにそう言われて、陸地と海の境目をみていると、少しずつ陸地が増えているようすが、見えてきた。海岸線が少しずつ海側に後退している。つまり陸地が広がっているんだ。
「本当だ!陸地が増えている。あっ、さっきのサンゴ礁が陸地の端っこに入っている。無事だったんだぁ。よかったぁ。」
ぼくは、とっても安心して、そう叫んだ。
「サンゴ礁は海底で火山と別れて、砂や泥と一緒になって陸地になっていったんだ。この海底で、サンゴ礁は立派な石灰岩になったんだよ。もうサンゴ礁じゃなくて、石灰岩になっている。そう半田石灰岩がついに日本の陸地に登場したんだ。あそこが萩の町ができる場所だよ。」
カルシウムくんが指差すその先に白く輝く石灰岩が見えた。僕の大好きな石灰岩。ついに日本に到着したんだね。おめでとう。
「この新しくできた陸地こそ、萩を支える岩盤になるんだ。だから、萩の土台の誕生でもあるんだ。萩の誕生を祝おう!」
「ハッピバースデー萩!ハッピバースデー萩!ハッギバースデー ツー ユー♪」
みんなでバースデイ・ソングを歌って、萩の町の地盤の誕生を喜んだ。
「萩だけではなく、秋吉台の石灰岩も一緒に、このとき日本にやってきたんだ。萩や秋吉を含め西日本の一部がこのとき生まれたんだけど、まだ現在の日本の大半は、まだ海の中だけど、半田石灰岩の到着をきっかけに、これからどんどん日本の地盤が出来ていくよ。萩の地盤は、日本の夜明けを導いたんだよ。明治維新の地”萩”は, 日本のジオの維新の地でもあるんだ。」
カルシウム王子は、地質だけではなく、歴史にも詳しいらしく、なかなか粋なことを言ってくれる。僕は叫びたくなった。
「半田地区の石灰岩は、日本の夜明けを導く萩のジオだっただね。」
「僕は、萩のジオの歴史が、そして、日本のジオの歴史が、ここから始まることを実感した。この旅が始まるとき、僕は白い石灰岩をボーッと眺めていて、石灰岩の中に取り込まれた。カルシウムくんたちとこれまで長い旅をしてきて、地球の姿をずっとみてきた。そして今、ぼくたちはついに萩のジオの始まりをみることができたんだ。この喜びを家に帰ったら、お父さんやお母さんや妹に教えてあげよう。でも、本当に帰れるだろうか?カルシウムくんは本当に僕を家に返してくれるんだろうか?約束を覚えてくれてるといいなと、思いながら、萩の陸地がすこしずつ増えて行く様子をながめていた。