SF笑説「がんばれ!半田くん」⑰プレート誕生
「地球を覆うこの海の底の別の場所では、生命の誕生とは別の、大事件が起こるんだ。今度は、その大事件の現場をみんなで見に行こう。」
マグネシウム王子がそう言うので、みんなは半信半疑で、また海の底深くへ潜っていった。
「海の底は、太陽の光が届かないから、とても暗いね。みんなの顔がよく見えないや。」
「半田くん、確かに暗いね。じゃあ僕の頭のヘッドライトを点つけて上げるよ。」
カルシウムくんは、そう言うと、頭に短い釣り竿のようなヘッドライトを取り付けた。
「カルシウムくん、まるでチョウチンアンコウだね。へんな格好だ。」
「半田くん、失礼じゃないか。チョウチンアンコウが僕の真似をしたんだ。」
「カルシウムくんは、未来から来たのだから、チョウチンアンコウの方が先だと思うんだけどな。」
「う、うるさい。普段は頭がまわらないのに、口だけ達者な石灰岩人間め!」
カルシウムくんは、半田くんにイラッとして、口を尖らせていた。
「しっ、静かに!」
マグネシウム王子が二人を制して、言った。
「ほら、何か聞こえないかい?何かが割れる音が。」
「バリッ、ベキッ、バリバリバリ。。。」
確かに大きな音が足元から聞こえてきた。そして、音がした方角の海底の岩盤を見てみると、真っ黒い亀裂が走っていった。その亀裂は、深い溝になり、どこまでも、まっすぐ続いているように見えた。
「おっ、ついに割れたね。」
「うん。これから始まるね。」
「楽しみだね。これからの地球が。」
マグネシウム王子、カルシウムくん、シリコンさんは、ワクワクしながら、声をかけあった。
「ねえ、マグネシム王子。これから何が起こるの?」
笠山つばきちゃんは、3つの守護球体がなぜワクワクしているのかが、知りたくて聞いた。
「これから大規模に海底が裂けて、地球に新しい夜明けがやってくるんだ。」
マグネシウムくんが、説明してくれたが、つばきちゃんは、さっぱり要領を得なかった。
「これは、海が裂けるんだからモーゼの仕業じゃないの?もうぜったいそうだわ。」山美は、ダジャレがうまく言ったと思い、少し自慢げに言った。
「山美、モーゼじゃないよ。モーゼは確かに海を割ったかもしれないけど、あれは海水だけでしょう?ここでは海底の岩盤が裂けているんだよ。そして、その岩盤の一部が地球内部に沈んでいくんだ。21世紀の日本で頻繁に地震や火山噴火が起こす岩盤(プレート)の沈み込みが、地球上で初めて起きているのを僕たちは今目の当たりにしているんだ。プレート活動の始まりだよ。」
マグネシウム王子は、そう説明すると、笠山つばきちゃんに向かって言った。
「みていてごらん。岩盤(プレート)の沈み込みが原因で、火山が噴火するよ。」
「わーっ、本当だ。海底からどんどん火山が噴火して、山が高くなっていって、島が出来てきたわ。それも1つじゃなくて、3つも4つも、いやもっとたくさんの火山が一列に出来てきたわ。」
「そう、火山が列に並んでできてきたね。海だけだった地球にはじめて、シリコンを沢山含んだ陸地ができたんだよ。その成分は、笠山の安山岩に似ているね。」
「笠山のようなマグマ活動は、こんな大昔からあったのね。感動だわ。」
このとき、つばきちゃんは地元の笠山のことを地球の英雄のように、誇らしく思いました。
「今の日本で起こっている火山の噴火や地震は、地球表面が冷えて、そんなに時間が経たないうちに、発生したみたいだ。つまり、笠山ちゃんの大好きな火山活動は、僕の大好きな石灰岩より早くから地球にあって、今も続いている、地球の大切な活動なんだなぁ。。。でも、僕の大好きな石灰岩はどうだろう?いまだに地球で見ることができていないし、役に立っているのかなぁ?」
僕がぶつぶつ独り言をつぶやいていると、カルシウムくんが僕を励ましてくれた。
「半田くん、君は笠山ちゃんの火山を羨ましく思っているんだね。心配しなくてもいいよ。もうすぐ君の大好きな石灰岩が活躍する時代が来るからね。石灰岩が活躍するということは、僕、つまりカルシウムが活躍するってことだけどね。」
カルシウムくんは、僕を励ましながら、自分のことを持ち上げていた。
地球の表面では、地表の岩盤が地球の内部に沈んでいったり、新しい岩盤が生まれたり、急にあちこちで激しい運動を始めた。この動きによって、岩盤(プレート)は、地球の表面を移動するようになってきた。この岩盤は別に空を飛んでいるわけじゃないけど、まるで魔法のじゅうたんのように自由に動き回っている。その動きによって大地が裂けたり、盛り上がったり、地球表面が生き物のように、活動的になってきた。もちろん、地球表面だけではなく、地球の内部でも、地球表面の動きに連動して、活発に動き回っているに違いない。これまで、地球の内部でぐるぐる動き回っていた岩石が、地表でも歩調を合わせて、動き回っている。まさに、21世紀に日本で、そして萩で、感じていたジオの息吹の始まりを、ここで見ることができたんだ。僕たちは、目の前で繰り広げられるダイナミックな地球の営みを見ながら、驚きと感動で包まれていった。