備忘録 29. 記憶VS忘却=付加VS侵食
備忘録28では、睡眠における、ヒラメキと忘却について、考察してみた。今回は、その話を、人間の成長と日本列島の成長を対比させてみたいと思っている。人間の成長はともかく、日本列島の成長については、普通の人には理解に苦しむ話だと思うので、読み飛ばしていただいて結構です。
睡眠の作用を考えたとき、記憶の忘却というのが重要な役割だと考えている。それと同時に、睡眠から覚醒する際に起こるヒラメキや知識の整理という機能も大切な要素である。この話は、備忘録28に書いたので、ここでは人間の成長の話に進んでいこう。
人間は、生まれてから、沢山の学びをする。学んで記憶するだけではなく、考えて新たな何かを創造することもできる。そして創造した何かを自らの記憶に収めていく。そうして、人が成長する過程で、知識や記憶がどんどん増えて行くはずだ。
でも、果たしてそうであろうか?人は吸収した知識や創造した何かのすべてを明示的に記憶をしてはいない。脳科学的に言えば、どこかのメモリーに保存しているのであろうが、意識のレベルに上がってくることはない。それは、脳内での整理なのかもしれないが、自分の意識としては「忘却」である。そして、物忘れが多く、物事を記憶することが嫌いな私は、この忘却ということが生きていく上でとても大切だと感じている。
一方、日本列島は、約5億年の年月をかけて、成長してきており、現在も成長を続けている。しかし、日本列島も単純な成長を続けているのではない。東北沖の日本海溝では、陸地がすこしずつ削られており、成長どころか陸地が減っている。このことを専門用語で侵食(構造浸食)と言う。一方、四国や紀伊半島沖の南海トラフでは、土砂が陸側にくっつき、陸地がすこしずつ成長している。こちらは、専門用語で付加(ふか)という。現在の日本では、東北日本では侵食、西南日本では付加が起こっている。しかし過去の日本では、日本全体が付加の時期や、日本全体が侵食の時期があり、これが交互にくり返して来ている。さて、問題です。これまでの日本列島の歴史において、付加と侵食はどちらが勝っているでしょうか?
答えは分かりましたか?
答えは、付加です。考えてもご覧なさい。陸地が削り摂られる侵食が勝っていたなら、みなさんが済んでいる土地は全て無くなっているはずなのです。つまり、日本のみなさんが無事陸地で生活できているということは、付加と侵食をくり返してもも、総量としては、すこしずつ陸地が成長し、今の大きさになっていったのです。みなさんが、日本で安心して暮らせるのも、そのためです。
人生の話に戻りましょう。人生の中で、知識や記憶を増やしていく脳力と、知識や記憶を忘れ去っていく脳力、はどちらが勝っているか?もう分かりますよね。そう、みなさんが学校や社会で学んだことは、確かに脳の中に残り、生きる道しるべとなっているはずです。しかし同時に、途中で忘却と整理という作業が、脳内で行われていることから、残された知識や記憶を効率良く使って、生きていけるのだと思います。
最後に、備忘録28の最後に書いた、認知症の話に戻ります。高齢者になると認知症になったり、物忘れが多くなったりします。高齢者じゃない方や、物忘れをしないしっかり者の高齢者の方々は、そうした方々を「ボケ老人」と罵ったり、見下したりしないでいただきたい。彼らや彼女らは、人生のラストステージに至り、不要なものを脳内から消し去り、楽しい記憶や美しい景色のみを脳に残して、人生を全うしたいのだと思います。不要なものは、もう要らないのです。