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1. ジオパークの目的と手段

Guy Martini氏の動画の前半には、ジオパーク発足の発端となったフランスでの出来事が示されています。この動画の全体の半分の時間を使って、「フランスの地質保護区で大規模な化石や鉱物の盗掘が行われ、それを契機として、地質サイトの保護に関する国際シンポジウムが開催され、地球の記憶の権利に関する国際宣言が採択された。このことを発端として、欧州でジオパークの概念が具体化された。」と述べられています。つまり、ジオパークの発端は、貴重な化石や鉱物、そして岩石の保護だったのです。ジオパークを具体化する際に、地質遺産の保護を可能にするために、地域の経済的発展は欠かせないものとして、地質遺産の保護、地域の持続可能な発展が、ジオパーク理念の両輪となっていきました。

注:動画URL : https://www.youtube.com/watch?v=A4qbm57ftIY

ジオパークのガイドラインには、以下のような記述があります。「ユネスコ世界ジオパークは、国際的な価値のある地質遺産を有する地域が、ボトムアップ形式の遺産の保全を通じて、その遺産への意識向上のために地域社会と連動してお互いを支援し、その地域の発展に持続可能な方法を採用する、国際協力の仕組みである。」この文章の中で、『その(地質)遺産への意識向上のために』は目的を表しており、『その地域の発展に持続可能な方法を採用する』は手段を表しています。つまり、ジオパークは、地質遺産を保護する意識を向上させるため、持続可能な地域振興という手段を使っているという意味と私は解釈しています。

日本ジオパーク委員会審査基本方針では、「日本ジオパーク委員会は、ユネスコ国際地質科学ジオパーク計画の定款とガイドラインに示されている考え方に沿って審査を行っています。」と記述されています。つまり、日本国内のジオパークとユネスコ世界ジオパークは、まったく同じ基準で審査されているのです。もし、そうであれば、両者を区別する意味がなくなります。しかし、さらに読み進めると、「日本ジオパーク委員会の審査では、 ジオパークを目指す地域が、持続可能な地域社会の実現のために、ジオパークとして、その地域にあったやり方で住民、行政、研究者などが、ともに考え続けているかどうかを重要な判断基準としています。」と記されています。つまり、日本ジオパークでは、持続可能な地域社会の実現が『目的』であり、ジオパークとして活動する『手段』を採用することになっています。

欧州で始まったユネスコ世界ジオパークは、地質遺産の保護への意識向上が目的であり、持続可能な地域振興が手段なのに対して、日本ジオパークでは、持続可能な地域振興が目的で、ジオパーク活動そのものが手段となっている。そう読み解くことができます。つまり、ユネスコ世界ジオパークと日本ジオパークでは、目的と手段が逆転していることになります。両者が独立した活動であれば問題ありませんが、日本ジオパークに所属する地域が、ユネスコ世界ジオパークを目指す場合には、このギャップを乗り越える必要があり、地質物品(岩石等)の販売問題に大きく関わってきます。つまり、において地質物品を販売する行為は、地質遺産を守るという『ユネスコ世界ジオパークの目的』に叶っておらず、ジオパークの基本理念に反していると判断されます。そのことは、地質遺産を活用して地域振興を図ることを目的にしている地域にとっては、若干理解しがたいことに感じられるのかもしれません。どうして、このような理解の齟齬が生じたのかについて、以下の章で、もう少し深く考えてみましょう。


ジオパークにおける目的は、地球への愛。それは、億万のお金より重い。。。はず。。。