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SF笑説「がんばれ!半田ん」         ⑦ 田床山美の冒険

 私の名前は田床山美。通称はヤマミーで、美怜小学校の5年生だよ。同級生には、笠山つばきちゃんや、半田ライムくんがいるわ。私の家は、萩市で有名な松下村塾の南東に聳える田床山の麓にあるの。麓から山頂までの、道がクネクネしていて、ちょっと大変なんだ。田床山の山頂は展望台になっていて、萩の市街地から萩湾まで一望できるの。とても、良い眺めよ。その眺望は、がんばってのぼってくる価値があるわよ。

 田床山は、今から約1億年前の流紋岩や安山岩からできているの。この岩石ができたころには、この一体で、火山のものすごい大爆発があったらしいわ。これらの岩石は、そのときの噴火でできた石なのよね。私の家の裏にあるのは、白っぽい流紋岩で、私の家の石垣にも使っているわ。この流紋岩ができたとき、地下にあったマグマが冷えてできたのが、指月山の花崗岩なの。実家の石と同じ時代のマグマで出来た指月山の花崗岩には親近感があって、美怜小学校に通っている日には、放課後にちょっと寄り道して、指月山に登るのが、私は大好き。

 指月山は、萩市街がある三角州の北西の端にそびえていて、高さは145mとそんなに高くないの。麓には江戸時代には萩藩を治めていた毛利氏の居城“萩城”があって、このあたりは昔から萩の中心だった場所よ。指月山から東の方には、砂丘が発達していて、その砂丘の上に、江戸時代の萩城下町が広がっていたらしい。現在は、その砂丘の北側の菊ヶ浜で夏に大きな花火大会があって、大勢の観光客で賑わっているんだけど、去年は中止でちょっぴり残念だったな。指月山は、全体が花崗岩でできていて、山頂に行くと花崗岩を見ることが出来るわ。その花崗岩には、石を切り出すために打ち込んだ楔の跡が、細長い穴の列として残っているのが見えるんだ。花崗岩を切り出して、萩城の石垣などに使ったのね。歴史を感じるわ。そういえば、同じような楔の跡が、笠山の麓の石にも残っているって、笠山つばきちゃんが言っていたわ。同じ頃に石を切っていたのかしら?つばきちゃんに案内してもらって、今度見に行ってみようっと。

そんなことを考えながら、私は、花崗岩をじっと眺めていた。花崗岩は、透明な石英、白い長石、黒い黒雲母が大きめの粒として配列していて、ザラザラした表面をしている。「この粗い粒がバラバラになると“まさ”という砂になり、その砂が細かくなって、風化してくると、最後は粘土になってしまう。この花崗岩からできた粘土が、萩で有名な萩焼の材料になったと、学校で習ったわ。だから、花崗岩は、萩のお城も作ったし、萩の文化も作った優秀な石なんだ。私はそんな花崗岩が大好き。」

 私はそう叫びながら、指月山の山頂に突き出た花崗岩の塊に抱きついた。いや、抱きついたはずだった。しかし、抱きつこうとした私の腕は、そのまま花崗岩の中にすっと入っていった。

「わだすは、すんげぇ力持ちじゃったのけえ?」

私は、抱きついた岩を砕いてしまったかと勘違いをして、突然訳のわからない言葉で叫んだ。

私は慌てて手を引き抜いて、手の裏表を見てみたが、何も変わりがなかった。もう一度ゆっくりと手を花崗岩に添えると、再びすーっと手が中に入っていった。

「あら、手が抵抗なく入っていくわ。どうして?誰かが秘密の加工をした石?花崗岩だけに?」

今度は、足も入れてみた。友達には大根足と呼ばれ、千石台の農家のおじさんには、美しい大根じゃのう。。。と、感動されたこの足も、なんの抵抗もなく、花崗岩の中に入っていった。

「ようし、それじゃ、今度は体ごと中に入ってみるか?よいしょっと。」

 私は自分だけスマートだと思っている身体全体を入れてみることにした。まずは、右側の大根、じゃなかった右足。次は左足。続いて、大きくてプリプリしたお尻。胸から背中へ、そして頭も入り、とうとう全身が花崗岩の中に入ってしまった。

「うわぁ、びっくりしたぁ。私は、石の中にすっぽり入ってしまったわ。入ったのは良いけど、出られるかしら?」

そう思って、さっき入った場所を手で押してみた。手は外側には出ることはできなくて、柔らかい壁がボヨンボヨンと揺れるだけだった。

「あらら、出られなくなっちゃったわ。どうしよう。困ったわ。」

 困った状況ではあるが、落ち着いて周りをみてみると、この石の中は意外に広くて、奥行きがありそうだ。足元には道らしきものもあって、ずっと先の方へ続いているようだ。道が少し下向きに続いているのは、名前が花崗岩(下降岩)のせいだろうか?最近、同級生の半田くんのせいで、やたらとダジャレが出て困るって、笠山つばきちゃんが言ってたけど、私にも感染ったのかもしれない。”半田ダジャレウイルス恐るべし”と思ったけど、状況はそんな生易しいものではなさそうだった。

「やれやれ、もう夕方だというのに、石の中から出られなくなっちゃったわ。どうしよう。お腹すいたなぁ。あっ、腹巻きに入れた藁納豆があった。これがあれば大丈夫。飢えることはないわ。でも、タクワンも欲しかったなぁ。朝お母さんが出してくれたタクワンは、私がみんな一人で食べちゃったし、もうないよな。ああ少し残して持ってくればよかった。残念。」

「さっきから、納豆だの、タクワンだの、小学生とは思えない、好物の話をしているのは、あの有名な田床山美さんじゃないですか?」

私は、突然現れた不思議な球体から話しかけられた。

田床山美は、花こう岩をながめていると身体だだんだん花こう岩の中に入っていってしまった。