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SF笑説「がんばれ!半田くん」⑭地球を包む愛

テッチャンたちとの別れのあと、僕たちは少し感傷的になった。

「ああ、行っちゃった。せっかく会えたのに。ねえマグネシウム王子、僕らも一緒に地下深いところへ行けないの?」

僕は、マグネシウム王子に聞いてみた。

「僕たちは鉄に比べて軽いので、地球の深いところまでは、なかなか行けないんだよ。」マグネシウム王子は、申し訳無さそうに言った。

「でも、山美は十分に重そうだよ。どうして?」

僕は素朴な疑問を投げかけた。

「ぼくたちは、ケイ素やカルシウム、マグネシウムなどは鉄に比べて密度が低い、つまり軽いんだ。だから地球の深い場所には行けないんだ。山美だって、太っているけど、重くはないよね。」

「誰が太ってるって?骨格がしっかりしているって言ってほしいわ。村一番のスリムな美人で通っているのよ。」山美は、猛烈に反論した。

「山美に、”スリムは無理ス”。回文だけどね。」

僕がからかうと、山美はさらに怒り出した。

「半田くん、コーティングをとって、溶かしてあげようか?熱いよ〜!」

「きゃあー、やめてー!」

僕は、山美の攻撃が怖くて、死にものぐるいで逃げ回った。

「ふたりとも、やめなさい。残された僕たちには、テッチャンたちとは違う、別のミッションがあるんだよ。」

カルシウムくんは、珍しく真面目にきっぱりと言った。

「私達のミッションって何なの?」 つばきちゃんが聞いた。

「詳しい説明は、つばきちゃんの守護球体のマグネシウム王子に任せるよ。」

と、カルシウムくんに促されたマグネシウム王子は説明をはじめた。

「僕たち、カルシウムやマグネシウムそしてシリコンは、酸素くんと協力して、テッチャンたちの核の周りに新しい世界をつくるために、集まるんだ。このマグマオーシャンには、仲間が沢山集まっているよ。半田くんたちの時代の地球で言えば、マントルに当たる場所だよ。マントルとは、覆うものという意味で、洋服で言えば外套(マント)だよ。アンパンマンも背中にマントをつけているだろう?テッチャンたちが集まって今一生懸命作っている“核”を覆うもの、それがマントルなんだ。僕たちは、これからできてくるマントルを作る準備に入るんだ。

君たちは、マグマオーシャンがこれからどうなっていくか?知ってるかい?」

「いつまでも、熱いままじゃあ、私達が住む場所ができないから、冷えていくのね、きっと。」笠山つばきちゃんがすぐ答えてくれた。
「そう、地球をこれ以上温める方法がない限り、これから先、地球は冷えていくしかない。マグマオーシャンだって、冷たい宇宙空間に接しているから、表面からどんどん冷えていくんだ。すると、地球の中はどうなると思う?」

「今度は私が答えるわ。」

山美が手を上げた。彼女は、教室ではいつも間違えを恐れないですぐに手を挙げる。僕にはできない暴挙だ。

「たぶん、外側が冷たくなったら、内側から温かいものを持っていって上げるわ。寒いときは、温かいおうどんが一番よね。」

「ほう、山美は、納豆とタクワン以外にも、うどんを食べるんだ。」

「もちろん、納豆入りうどんよ。タクワンを添えてね。」

「わっ、わかった。おうどん美味しいよね。でも、良い線いっているよ。山美。そう、外側が冷たくなったら、内側から温かいもの、いや熱い物が出てくるんだ。熱い地球内部の熱を、どんどん外、つまり宇宙空間に運び出そうとするんだ。熱を運ぶこの動きのことを対流っていうんだけど、お味噌汁を飲むとき、お椀の中を眺めていると、もこもこと味噌汁が湧き上がっていることがあるだろう?あれは、味噌汁の温かい部分が表面に出てきて、味噌汁全体を冷やそうとしているんだ。」

「そうか、対流があるから、味噌汁が冷めないうちに早く飲みなさいって、お母さんに叱られるんだ。」僕は妙に納得して言った。

「いや、お母さんの意図は別にあったと思うけど、まあいいや。そう地球の中でも、地球の中心から表面に向かってどんどん熱を逃がそうとする動きが必要になるだよ。それが対流で、その対流を担うのが僕たちの新しい役割なんだ。」

マグネシウム王子は僕たちのこれからのミッションをこのように説明してくれた。

「王子、それじゃ、私達はどうすればいいの?」

笠山つばきちゃんが、代表して聞いてくれた。

「僕たちは、テッチャンたちのいる核の近くまで行って、十分温まったら、その熱をまとって、地球の表面まで上がってくるんだ。地球の表面でプハーッと顔を出したら、そこで地球の外側の寒い大気に触れて体が冷えるから、また地球内部に潜って、またテッチャンたちのいる地球内部の方へ向かって移動するんだ。これを繰り返すことで、地球の熱がどんどん宇宙へ運ばれていくよ。ぼくらが頑張って地球内部の熱を地球の外側に向かって運べばが、地球は次第に冷えていって、将来君たちの祖先や子孫が住める地球が出来るんだよ。がんばってやり抜こう。」

「地球の未来は、君たちの頑張りにかかっている」

僕は、マグネシウム王子にそう言われたような気がした。

「よしがんばろう。誰が一番熱を運べるか、競争だ。レッツゴー!」

 とはいえ、この競争の結果は見えていた。体積の大きい山美が一番だし、頑張り屋のつばきちゃんが二番だった。僕は、予想通りダントツのビリで、地球の熱を少ししか運ばないうちに、疲れて自分が熱を出して、翌日寝込んでしまった。

味噌汁は対流したのち湯気で熱を逃がしている。地球も内部の対流で、宇宙空間に熱を放出している。