SF笑説「がんばれ!半田くん」 ⑱友との再会
地球のあちらこちらにできた島は、島の根っこがある海底の岩盤(プレート)と一緒に動き始める。移動してきた島は、他の島と衝突して合体して大きな陸地になっていった。こんどは大きな陸地と大きな陸地がプレートで移動して、衝突して、もっと大きな陸地ができた。こうして、深い海だけで囲まれた地球のあちらこちらに、陸地ができるようになってきた。
「陸地の周りに浅瀬ができただろう?あそこは、太陽の光も届いて、とっても気持ちがいいんんだ。そこでは、太陽の光を使って光合成をする生き物も生活するようになってきたみたい。」
マグネシウム王子が、陸地の周りのキラキラ光る海を見ながら、感慨深そうに、説明した。
「光合成をするって、本当?じゃあ、その生き物が、二酸化炭素をつかって、酸素を生み出してくれるってこと?」
お勉強のよくできる笠山つばきちゃんは、嬉しそうに言っているが、僕には何のことやらさっぱり分からなかった。
「ほら今君たちは、禰豆子みたいな酸素ボンベを咥えているだろう?生き物が酸素を作ってくれれば、もうすぐその酸素ボンベなしで、息ができるようになるんだよ。半田くん、分かったかい?」
カルシウムくんは、良く分からなくてボーッとしている半田くんに、状況を説明してあげた。
シリコンさんは、掌を空に向かって広げると、胸になにかの数字が現れてきた。どうやら酸素濃度を測定しているようだった。
「みんな、ほらだんだん酸素が増えてきたよ。そろそろ酸素ボンベもいらないかもしれない。それに、陸地も増えてきたから、防水コーティングも脱いでしまいましょうよ。」
シリコンさんの呼びかけで、ぼくたちはおそるおそる酸素ボンベをはずして、防水コーティングを脱ぎ始めた。そして、新しくできた陸地に降り立った。
「あっ、息ができる。酸素があるんだ。太陽の光と、海の水、そして酸素。とうとう僕たちにとって大切な物が手に入るようになったんだ。」
僕は、新鮮な空気を吸うことができる喜びを満喫した。
「生き物はまだ海の中にしかいないから、君たちは陸地に上陸した地球最初の生物なのかもしれないね。もちろん、生物の歴史には記録されないけどね。」
とマグネシウム王子の言う通り、陸地には草木が一本も生えてなくて、石がゴツゴツと露出していた。生き物の気配のない死の世界だった。
「生き物がいないって、さみしいな。」
僕がそう言うと、山美が反対した。
「私、虫が苦手だから、丁度いいわ。か弱い女性にはいい環境ね。」
「いや、太陽の光は強いし、紫外線も多いから、か弱い女性のお肌には大敵よ。草や木も生えてないから、日陰もないから。帽子と日焼け止めクリームが必要だったわね。」
シリコンさんの説明に、山美とつばきちゃんは、顔を見合わせて、困った顔をしていた。
「光合成では、水分や二酸化炭素を使って、炭水化物や酸素を作り出すだよね。つまり、酸素を作り出すだけではなく、二酸化炭素を減らす役割があるんだよ。」
シリコンさんの光合成についての説明に、つばきちゃんは目を輝かせて、言った。
「光合成する生き物ってすごいわね。」
「最初にその役割を果たしたのは、シアノバクテリアという小さな生き物さ。シアノバクテリアは、地球上に最初に酸素をもたらした英雄みたいな生き物だよ。」
シリコンさんは、シアノバクテリアの大ファンのようだった。
「最初はシアノバクテリアのような小さな生き物だったけど、次第に大きな植物がその役割を担っていくんだ。生物の進化にとって、酸素はとても大切な役割だったんだ。でも、酸素ができ始めた時代には、酸素は生き物にとって、毒でさえあったんだよ。酸素を吸うと生きていけないそんな生き物が沢山いた時代があったんだ。でも、そんな時代とも、もうお別れだ。シアノバクテリアさんのおかげで、君たち人間が生きていける未来が開たんだ。」
シリコンは、僕たちの明るい未来を説明してくれた。その時、マグネシウム王子は思いもしないことを言い出した。
「そろそろ、あの古い友人と再会できるような気がする。もう一度、みんなで海底に潜ってみよう。」
「あの友人って誰?せっかく酸素ができたのに、また酸素ボンベ加えて、防水コーティング着るの?やだー!」
山美は、暑苦しいコーティングに入るのを嫌ったが、マグネシウム王子が熱心に誘うので、行ってみることにした。
「空気の中に酸素が増えると、海の中にも溶けて、海の中でも酸素が増えるんだ。でも、酸素は一番底までは届いてないようだ。この瞬間こそ、あの友達に会えるチャンスなんだ。」
マグネシウム王子は、海の底までやってきたのに、まだ古い友人について教えてくれない。僕たちは、半信半疑で、海の底を見つめていた。その時だった。
「やあ、みんな。久しぶり。僕だよ。」
海の底に現れたのは、地球の中心で愛を叫ぶために、地球の奥深くまで潜っていったテッチャンだった。
「えっ?どうして、地球の真ん中で、地球を支えるんじゃなかったの?」
僕は、不思議に思って、テッチャンに問いかけた。
「ああ、もちろん僕の仲間の鉄球体はほとんどが、核となって、地球を支えているよ。でも、鉄球体の一部は、将来人間たちが、生活の中で鉄を使えるように、縞状鉄鉱層として、海底に現れたのさ。」
テッチャンの説明に、シリコンさんが答えた。
「テッチャン、久しぶり。そうね。シリコンだけでは、人間は料理できないものね。包丁や鍋、フライパンだって必要だしね。それにしても、また会えて嬉しいよ。」
みんなは、気のいいテッチャンと再会できたことをとても喜んだ。
「鉄の球体がイオンとして海底に現れるのは、酸素がまだ海底近くまで届いていない今しかなかったし、少し上まで辿り着いた酸素と結び付いて酸化することで、鉄鉱床になるので、この時期が再会の唯一のチャンスだったからね。」
マグネシウム王子は、この偶然の再会を詳しく解説するとともに、21世紀に人類が使っている鉄のほとんどは、このときの海底で出来たことを説明してくれた。酸素を作ったシアノバクテリアとテッチャンの志がなければ、人間は鉄を使うことができなかったと知って、自然の不思議な出逢いに、僕たちは感謝を捧げた。