見出し画像

弁理士試験の勉強を始めた頃に何度も読んだ商標の本『佐藤さんはなぜいっぱいいるのか?』


身近な例から商標を解説した本

 商標の裁判例や雑学が分かる本は、一般の人に関心を持たれにくい傾向にあります。
 しかしそんな本が、『佐藤さんはなぜいっぱいいるのか?』というタイトルなら、興味が湧くのではないでしょうか。

 私は弁理士試験の勉強を始めた頃に、この本を何度も読みました。

大勝軒の謎やスターバックス対エクセルシオールの争いなど、商標がよく分かる事例がたくさん

 この本の特色は、日本でよく知られた商標の疑問や訴訟を、分かりやすく解説していることです。

 第2章では、「大勝軒」の謎について解説しています。
 東京近郊に、チェーン店同士でないのに「大勝軒」を名乗るラーメン店が多くあります。なぜ、こんな現象が起きているのでしょうか。
 これは、「大勝軒」は元々登録商標だったものの、飲食業界で不特定の人々に使われた結果、商標としての機能を失ったことによる現象です。
 特定の誰かを示す名称だったものが、その業界で一般的に使用される目印に変わるという、商標の一面が分かります。

 第4章では、2000年にスターバックスが、エクセルシオールのロゴを自社の当時のロゴと似ているとして、不正競争防止法で訴えた事件について解説しています。
 訴訟は両者の和解で終わり、エクセルシオールのロゴは現在でも使われている青色に変わりました。
 この章では、商標同士が似ているかの判断の例がよく分かります。
 また、スターバックスのロゴの変遷から、商標として大事な部分(要部)の考え方も知ることができます。

商標を「活用する」話も面白い

 この本のもうひとつの特色として、商標の考え方を応用して成功した例が分かるという点があります。

 第1章では、タイトルの「佐藤さん」の疑問を扱っています。
 この章では、佐藤姓が日本に増えた歴史だけでなく、佐藤製薬や焼酎佐藤が商標によって他の「佐藤さん」から識別されやすくなった例も解説されています。

 第7章では、黒豆甘納豆菓子を「ゴリラの鼻くそ」と名付けたことと販売場所を動物園に特定したことでヒットした例や、「関さば」「関あじ」を地域団体商標制度が導入された後に出願して模倣を防げるようになった例などが解説されています。
 さらに著書の経験として、「出会いたい人間」を具体的に想像して自分に目印を付け、仲間やパートナーを作れた例も説明されています。
 商標の考え方は、ビジネスはもちろんプライベートでも役に立つと分かります。

まとめ

本のイメージ

 商標の疑問や訴訟が分かり、商標の考え方を活用する方法も書かれた本を紹介しました。
 2011年頃の本なので、法改正で今とは異なっている記載が何ヵ所かあります。
 とはいえ、商標の根本的な考え方は今と同じです。

 私にとっては、商標のことがまだ理解できていない時に読んで助けになった、思い出の一冊です。
 また、「こんな風に分かりやすく商標を説明したい」という、憧れの一冊でもあります。
 時折読み返して、初心を思い出しつつアウトプット力を磨きたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!