個人ー職務適合のダイナミクス~状況が変わればFitも変わる~
こんにちは。今回は、組織内での役割やスキルが時間とともに変化する中で個人ー職務適合(Person-Job Fit)がどのように変わっていくのかを解説していきます。
今日の一言サマリ
「ぴったりな仕事」という知覚は刻一刻と変化する
参考にした論文
Kim, Tae-Yeol, Sebastian C. Schuh, and Yahua Cai. 2020. “Person or Job? Change in Person‐job Fit and Its Impact on Employee Work Attitudes over Time.” The Journal of Management Studies 57 (2): 287–313.
個人ー職務適合
個人ー職務適合については、下記の記事で解説しました。個人が知覚する、仕事が自分に合っているという感覚と理解できます。
個人ー職務適合は、次の2つの下位概念で構成されます。
要求ー能力適合(DemandーAbility Fit):環境が求めるものと個人の能力が適合する
ニーズー供給適合(NeedsーSupply Fit):個人が環境に欲するものと環境が提供できるものが適合する
研究手法
この研究では、168名の従業員を対象に6カ月ごとに3回の調査を実施し、需要、能力、ニーズ、供給の変化が個人ー職務適合にどのように影響するかが検証されました。
個人ー職務適合はダイナミックに変化する
検証の結果、個人ー職務適合は動的であり、従業員や仕事環境の変化に応じて変動することがわかりました。以下のような関係が明らかになりました。
要求が増えるとFitは低下する
仕事の要求が増加すると、従業員の能力がそれに追いつかない場合、要求ー能力適合が低下します。能力が増えるとFitは低下する
従業員の能力が向上すると、その能力に対して要求が不足することで、要求ー能力適合が一時的に低下することがあります。要求に対して能力が高すぎることも適合を低下させるのです。要求の変化は能力の変化より影響が強い
仕事の要求が変化することは、従業員の能力の変化よりもP-J Fitに大きな影響を与えることが確認されました。能力が増えると要求が増える
従業員の能力が向上すると、それに伴って仕事の要求も増える傾向があります。できる人に仕事が集まる傾向と一致した結果です。要求が増えると能力が増える
仕事の要求が増加すると、従業員はその新しい要求に対応するために新たな能力を習得し、成長することがあります。ニーズが増えるとFitは低下する
従業員のニーズが増加すると、それを満たすための供給が不足している場合、ニーズー供給適合が低下します。供給が増えるとFitは向上する
仕事から得られる供給(例えば、給与や仕事の自律性などの資源)が増えると、ニーズー供給適合が向上します。供給の変化はニーズの変化より影響が強い
供給の変化は、従業員のニーズの変化よりもニーズー供給適合に強い影響を与える傾向があることが示されました。ニーズー供給適合の方が要求ー能力適合よりも強く個人ー職務適合に影響する
ニーズー供給適合の変化は、要求ー能力適合よりも個人ー職務適合に強い影響を及ぼすことが明らかになりました。
実践への示唆
ビジネスの現場では、今回の知見をどのように活用できるでしょうか。
まず個人と職務の適合状態はずっと固定的なものではなく、動的なものだと考えることが重要です。従業員にとっての「ぴったりな仕事」は刻々と変化するのです。
従業員の成長に応じた適切な仕事の割り当てが重要です。従業員の能力が向上した場合、より高度な業務を提供し、成長に見合った役割を与えることでFitを維持できます。
次に、従業員のニーズ把握と対応が必要です。従業員が求めるニーズに応じたサポートを提供することで、Need-Supply Fitを向上させ、モチベーションを高めることが可能です。
最後に、定期的なフィットの評価を行い、仕事や環境を柔軟に調整することが、従業員の満足度や組織へのコミットメントを維持し、組織全体のパフォーマンスを向上させる鍵となります。