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博物館資料保存論 レポート(設問形式)⑯

【問】「油絵の修復方法」について簡潔に説明せよ。説明の際は次のキーワードを用いること。(絵具層の浮き上がり接着・両面洗浄・支持体の変形修正と補強・裏打ち・ストリップライニング・絵具の剥離箇所への充填整形・補彩・保護ワニス)

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油絵は顔料と乾性油を練り合わせて布や板に絵を描いたものである。時には紙や絹に描かれたものもある。顔料は粒子が細かいものが微細であることが好ましく、乾性油は主に亜麻仁油、けし油が使用されている。油絵の具に含まれる乾性油が空気中の酸素を吸収し重合によって固まる。
 現代の油彩画修復に際して事前調査も修復の一部であり、写真撮影・絵の具層の表面観察・絵具層の内部観察等を行う。また、油彩画の劣化と損傷の原因は大きく、①経年劣化②作家が用いた技法と材料による損傷③保存環境による劣化④人為的な損傷⑤自然災害⑥修復による損傷などによるものである。このような劣化をした油彩画の修復処置は抜本的な大修理は避け、作品への無理な介入はせず、傷んだ箇所のみの処置にとどめることとする。
 絵具層が支持体から浮き上がり始めた場合、そのまま放置しておくとその絵の具層は剥落し始める。浮き上がり箇所には膠や合成樹脂などの接着剤を当箇所に注入し温度調節の効くヒーター付きのコテで加温加圧する。この処置は修復処理としては最も最初に行う処置である。また、絵具層が固定されることにより次に続く作業を安全に進めることにつなげることを可能とする。接着剤はすき間への浸透性がよく、絵具層表面に残留した場合でも容易に取り除けることが求められる。溶剤が強すぎた場合オリジナルの絵の具を溶かしてしまう事もあり、強い溶剤を接着剤として選択する際は注意が必要である。
 油彩画の修復法のなかで最も画面の印象を大きく変える重要な作業といえるものが画面洗浄である。手順としてはまず、表面の汚れが取り除き、続いて変色したワニスや旧修復がある場合は補彩や補填剤の除去と続く、また後年の加筆を除去する場合もある。洗浄剤はオリジナルの絵具層に安全なものを選択し、綿棒に溶剤を含ませ汚れを取り除く。洗浄の作業は画面全体を大きく拭くことは行わずに適切な洗浄度をとりながら慎重に進める。
支持体とは絵を支える物体であり、絵画の土台,基底となる部分である。カンバス(布),紙,板など.金属板,ガラス,石などが使われることもあるが、ここではカンバスに絞り支持体の変形修正と補強に際した説明をする。カンバスの変形には支持体である亜麻布と絵具の硬化がしている場合が多く、カンバスの裏側から加湿し、ハンドアイロンで加温加湿して変形を取り除く。変形が強い場合にはカンバスの張りしろに亜麻布を補強し、ストレッチャーに張り込むと平らに戻すことが可能である。作業としてはストレッチャーを使用しない場合と同様に裏面から加湿、加温、加圧をする。支持体のカンバスが破損して破れた作品には破損部の布繊維を折り目に合わせ整え新たに亜麻布をブリッジし、接着してつなぐ。接着剤は多くの場合で膠を用いる。
 カンバスの著しい劣化や大きな変形が認められた場合、新たに裏面に布を張り付け補強する方法を「裏打ち」という。裏打ちによって大きな変形も平らに戻すことが出来、含侵した接着剤により浮き上がりかけた絵具層も元に戻すことが出来る。使用する接着剤は作品の状態にあったものを選択することとし、膠、澱粉糊、調合されたワックス、合成樹脂が用いられている。また、近年は接着剤を極力作品に加えない配慮から裏打ち作業は行われなくなりつつある。
 劣化損傷した作品を新たに木枠に貼り込むために丈夫な張りしろを必要とするが、多くの場合、カンバスの張りしろは劣化して足りなくなっており、そのまま再張り込みをすることが困難となる。そういった場合には弱った張りしろに別の布を貼り付けて縁を補強する。四辺が強化され作品を木枠に固定することが出来、軽度のカンバスの変形やたるみには大変な有効である。この方法をストリップライニングという。
 カンバスの裏側に布を接着せず、絵画を一旦木枠から取り外しあらかじめ木枠に貼り込んだ新規の布の上に二重張りする方法をルースライニングという。貼られた作品は丈夫な下敷きの布に支えられ、継続的に安定した状態を保たせることが可能である。裏打ちとは違ってカンバスに布を接着しないので、将来の修復処置の際などにルースライニングの布を外すことは容易である。使用する布地はポリエステルが主だが、裏面に貴重な書き込みなどがある場合には織り糸数の少ない薄手の布を使用し補強とともに裏書の文字も透けて見えるようにする。
 補彩は、剥落部に色を入れる処置のことである。油彩画に対し油絵の具による補彩は厳禁である。油絵の具はオリジナルと同質であるので可逆性が乏しいためである。補彩絵具は将来にわたって変色や退色の少ない安定した材料であることが望まれる。水彩絵具や修復用溶剤型アクリル絵の具など、油絵具とは溶解度が異なり、可逆性のある絵具を用いる。
 彩色を終えた作品は最終的に透明な保護ワニスをかける。ワニスは作品を美しく見せると同時に紫外線や、空気中の汚染ガスから作品を守り、良い状態を長く保つ。しかし、あまりに絵具層が脆弱であったり、製作当初から光沢を望まない作品など、作品の状態によりワニスがけを避ける作品もある。そういった作品にはワニスがけは行わずに極力有害な環境から避ける、小品であるならば紫外線カット透明アクリル入れた額装で対応するほかに手段がない。劣化したワニスは茶褐色に変色し、白濁したりするので交換が必要とされる。おおよその交換時期は50年から100年くらいを目安とする。通常使用されるワニスは天然のダンマルワニス、マスチックワニスであり、合成樹脂ではアクリル系ワニスがある。

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