博物館資料保存論 レポート(設問形式)⑮
【問】「紙資料の修復方法」について簡潔に説明せよ。説明の際は次のキーワードを用いること。(フラットニング・剥落止め・クリーニング・本紙の補填、強化・脱酸化処理、漂白)
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紙資料を修復する際はまず肉眼および赤外線、X線など各種光線を用いて紙の産地並びに製造時期の推定や劣化原因の推定などの材質調査をしたうえで修復方法を検討し、実際の作業に入る。
紙資料の修復方法には「フラット二ング」、「剥落止め」、「クリーニング」、「本紙の補填、強化」、「脱酸性化処理」、「漂白」などがある。
フラット二ングは紙資料が丸まっていたり変形し凹凸がある場合に平らにする処理である。霧吹きで紙に水を与えるのが一般的ではあるが、液体の水が使えない、ないしは液体の水が使えるか同課の判断が難しいケースもあり、その際には高湿度の箱の中に資料を入れる、水蒸気のみを通過させるゴアテックスシートを資料の上に乗せ、その上にぬらした濾紙を置き加湿するなどの方法をとる。
剥落止めは絵の具を画面に固着している膠などの展色剤が劣化し、絵の具の剥落や彩色層が浮上した際に施す。剥落止めを行う際に表面につやを帯びさせると見た目が変わってしまうためそのような事態にならないような材料や手段を選択しなくてはならなない。剥落を止める材料には伝統的なものとして膠や府のりが使用されているがこの素材では対処が難しいとされる場合、メチルセルロース(MC)やヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を使用する場合もある。だが、ポリビニルアルコールで修復された作品ではのちに変色・剥落が進むといった問題を生じた事例もあり使用する際には慎重さが求められる。
試料が汚れている時にはクリーニングを行う。埃はカビを発生させる原因にもなるのでクリーニングを行う事は防かびの作用にもつながる。
クリーニングには、水を使用せずに刷毛や粉消しゴムで埃・カビを取り除くドライクリーニングと、水洗処理で紙中にたまっている酸や汚れを洗い出すウエットクリーニングの2種類があるウエットクリーニングで水処理を行う際には作品に水溶性のインクが使用されていないかを確認したうえで作業を行う事となる。これは滲みやインクの流出を防止するために必要な作業である。また、脱酸性化処理に用いるアルカリは染料を変色させる可能性が非常に高いので注意を要する。水が浸透しにくい資料をウェットクリーニングする際はエタノールを混合し改善する方法がある。その際の処理の範囲を限定するにはサクションテーブル上に作品を置き、処理液を吸引し周囲に液が広がらないようにするという手段がある。もし、資料にかびが発生した場合は周囲に飛散しないように資料を隔離する美術作品の本紙にかびが発生していた場合は修復化に任せることとし、軽度なカビの場合は70%エタノールで対象の資料と置いてあった棚などを拭いておく。かびの胞子は人体にも影響を及ぼすのでマスクの着用や換気をおこなう事とする。
資料に発生した虫食いの穴などを放置しておくと後に大きな損傷を起こす恐れがある為にこれを埋める処置が必要である。しかし、一つずつ穴を埋めているのでは時間がかかるため、リースキャスティング法(漉嵌め法)で一気に全体を処理する。これは繊維を水中に分散させた液体を本紙の上から流し、下から水を抜くというものである。これを行う事で穴の開いた部分に繊維が優先的に嵌め込むことが出来る。また、虫食い以外に頁が裂けている場合はその部分に薄い楮紙で裏打ちをする。以前は全面を裏打ちしていたが髪全体が劣化していないのであれば出来るだけ裏打ちは避けるのが望ましいとされる。これは紙本来の風合いなどの情報が失われてしまうためである。裏打ち以外の適切な方法がない場合は裏打ちを行うが本紙両面に書写されているなどといった場合は坪量3g/㎥前後の極薄の楮紙を本紙表面に貼る方法が用いられることもある。あるいは、紙を相剥ぎし、間に補強紙を入れ再接着するといったペーパースプリット法を行う。本紙に直接処理を行わないフィルムエンキャプセレーション法もあるが、ラミネーションは粘着剤が後に大きな問題を引き起こすので使用は厳禁である。同様にセロハンテープ・ドラフトテープ・ポストイットも本紙への使用は厳禁となる。
脱酸性化処理を行う事で紙の残存寿命が3年延びると言われている。脱酸性化処理には少量法と大量法、また、水性と非水性の方法に分けられる。1枚の紙でできた資料で水の使用が可能であれば紙の洗浄から脱酸性化処理、その後の漂白まで一連の流れとして行うことが可能である。炭酸水素カルシウムや炭酸水素マグネシウムなどの水溶液を少量脱酸性化法では用い、非水性の少量脱酸化性化処理にはバリウムメタノール溶液や酸化マグネシウムの分散液(ブックキーパー法のスプレー)がよく用いられている。我が国で行われている大量脱酸性化処理としてはブックキーパー法とドライ・アンモニア・酸化エチレン(DAE)法がある。脱酸性化処理により退色の恐れがあるため、多様な紙や記録材料が混在しているもの、また貴重な作品や文書には大量脱酸化処理は使用しない。
漂白には参加漂白と還元漂白がある。一般には漂白処理は紙を劣化させるので出来るだけ行わないこととしている。特に過マンガン酸カリウムは文化財美術作品や文書への使用は絶対に避けるべきであるとされる。その理由は処理液の色が濃いために漂白処理の進行が観察できない、酸化力が強いので繊維へのダメージが大きい、残存薬品による変化が起こるなどである。塩素系薬品(クロラミンT)なども同様の問題を引き起こすと言われる。比較的傷みの少ない漂白法としてアルカリ水溶液に浸透させ太陽光などに充てるサンブリーチ法があるがこれもまた画面に発生した茶色のシミ(フォクシング)が鑑賞上で問題とされる時などにやむなく行うにとどめるのが望ましい。
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