博物館資料保存論 レポート(設問形式)⑩
【問】正倉院における現在の宝物点検について簡潔に紹介せよ。
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正倉院西宝庫では年に1度、秋季定例開封行事「開封の儀」が行われる。古来のような資料を太陽に当てる、外気に曝すことはなくなり、“曝涼”と呼ぶより“作業”と呼ぶ方がふさわしくなっている。
点検は保存課職員の全員で行い、1日の作業時間は午前10時~正午までの2時間、午後は13時~15時までの2時間の計4時間に限定されているが、この作業時間が集中力持続の観点から妥当とされている。他の時間は点検やその他の作業の準備や記録などにあてる。
点検にあたり、多くの宝物の場合は2~4名、大型の宝物では6名ほどが一班となり作業を行う。まずは大きな異常がないかをざっと確認し、その後に内外面すべてに細部に異常がないかどうかを丹念に調べる。必ず複数名で班をつくる理由は作業時の危険を軽減する、複数名で点検した方が宝物の異常の見落としが少なくなる、などの理由からである。
宝物に異常が認められた場合はその異常がエタノールによるカビの除去などの簡単な処置が可能であればその場で処置を実地する。若干手間がかかりそうな場合は収蔵庫から取り出し、然るべき作業室で1週間程度の作業を行い開封期間中に収蔵庫に戻すことを目指す。しかし、本格的な修理や処置が必要と判断された場合は収蔵庫から出蔵して外部の修理技術者ないし内部専門職員によって数か月~数年にわたる処置を実地することとなる。この場合は元あった場所に返すまでに翌年以降の開封時期となる。外部の専門技術者による修理を行った宝物には『鳥毛立女屏風』、『彩絵仏像播』、『伎楽面』などがある。
一つの宝物において点検を終えた後にはわきに添えられてある点検カードに大きな異常、虫・カビ被害の有無、防虫剤(樟脳)の取り換え、防カビ剤の使用、その他取り扱い時に注意すべき特記事項を記入しておく。
また、点検に際してはどの職員がどの宝物を担当するかは成り行きであるが、これは全体に慣れ親しみ全ての宝物に愛着が持てるようになる下地作りへと繋がっていく。そして、点検は宝物の扱い方をベテランから若手に伝授する場でもある。宝物の銘文、材質、技法など様々な情報についても作業中の話題に及ぶこともあり、そういった会話から宝物と点検を好きになっていくきっかけができる。
10月~11月の開封期間中は宝物点検以外にも各種作業が行われている。正倉院展に関連した貸出先博物館との宝物の引き渡しおよび引き取り点検、外部調査員を交えた宝物特別調査ならびに宝物模造事前調査、外部機関による正倉院文書調査などへの対応、宝物の写真撮影などである。開封期間は約2か月となり、実働は約40日間だが、平均すれば点検に半分、その他の作業に半分を費やす。
正倉院東宝庫には経巻、整理中の染織品、組立不可能な器物の残材などが収蔵されている。その点検は5月の連休前後の5日程度があてられている。
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