山人万博(β)はどのような試みか
2024年6月9日(日)、岩手県西和賀町のゆう星館で開催する「山人万博(β)」についてです。山人としては初となる一般開放のイベントです。町内外のみなさま、山人を知っている方も知らない方も、西和賀町に興味のある方は6月9日、ぜひゆう星館に遊びに来てください。
今回はその「山人万博(β)」について、背景を書き残しておこうと思います。
万博という名称は誤用だった
まず、「万博」という表現が「万国博覧会」の略語であるという経緯からすると、「山人万博」という表現そのものが単に意味を成していないということも踏まえつつ、今回は、企画当初の勢い、語感の良さを頼りに、このような名前で開催させてもらうことにしました。
企画当初、世間では大阪万博のあの巨大なリングに関する報道や国会質疑が話題になっている時期で、万博という言葉そのものに対するネガティブなイメージが蔓延していたように感じます。その話題性をむしろ利用したいと思っていたことも確かです。
最近ではあまり批判も聞かれなくなりましたが、関西大阪万博、成功してほしいですね。藤本壮介さんがあのリングにみた思い、「多様でありながらひとつ」という建築コンセプトが理解されることを願っています。
それはともかく、山人万博は、来年は名称変更になると思います😅 イベント名の最後に(β)をつけたことでだいぶ予防線を張っている感じがしますでしょう。今回は第1回目のお試し企画であり、みなさんからのフィードバックを得ながら、来年こそ本番にしたい、という気持ちがあるからです。
ゆう星館の取得から始まった企画
山人が、町内左草地区にある日帰り温泉「ふれあいゆう星館」を取得する手続きに入ったのは、2021年の秋からでした。コロナ前から運営継続が難しくなっていた第三セクターの施設で、コロナを機に本格的に休館し、町として入札にかける手続きに入りました。
建物は0円、土地に対してだけ約130万円という価格で、町外を含め広く入札を募りましたが、当初は「温泉事業を継続することが前提」だったため、買い手がつきませんでした。あらためてその条件を廃して再度売りにかけたところに、私たちが手を挙げたという経緯があります。
その頃から、ゆう星館に関する具体的な事業イメージは持っていました。ゆう星館は、放っておくには惜しい様々な優位性を備えた施設です。目の前に広がる広大な空は、とくに星空観察において随一の場所です。広いキッチン付き研修室も、ほかの施設ではあまりみられない魅力的な構造をしています。アクセスには多少難があるものの、山人-yamado-単体ではやりづらいこと、物理的に難しいことも、ここならいろいろできる。国の事業再構築補助金を利用しながら、2年ほどかけて地道に修繕などを手掛けてきました。
修繕前の当時のゆう星館の様子は、下記のリンクから3Dデータとして閲覧することができます。
山人-yamado-ではできないこと
山人の前身である末広旅館は、長い歴史がある湯川温泉の中でも後発でしたが、それでも昭和から平成にかけて、地元の人たちからも長く親しまれ利用されてきました。山人-yamado-に移行して価格帯を一段あげたことによって、ターゲット層が、いわゆる「都会の人たち」になり、地元の人を顧客層として抱えることができなくなります。これは特に説明しなくてもご理解いただけることと思います。地域のハイクラス旅館が地元の人たちの需要によって支えられているというケースは世の中見渡してもほとんどないでしょう。
そこに、私たちのビジネスのもどかしさがありました。地域密着でありながら、顧客は地域の外にいる、ということです。
地域の魅力を衣食住の総合体験として演出し、その地域のファンを増やすことが私たちの第一の仕事です。地域資源をどこよりもふんだんに使わせてもらっています。なので、取引していただいている地元の事業者さんたちとの交流は盛んにさせてもらっているのですが、それ以外の地元の人たちからは私たちのビジネスの実態が見えないので、町全体としては一向に理解が進まないんですね。しかも山人-yamado-はプライベート感を大切にした「隠れ家風」の施設であるということが、地元の人たちにとって、より一層取っ付きにくい要因となっているように思います。
従業員にとっても同じようなことがいえました。囲われた施設の中で、予約のお客様以外を相手にすることがない特性上、地域との関係における偶然性や偶発性がない。西和賀にいながら、ずっと西和賀の外の人を相手に商売をしているのです。
工場だったらそういうものだと思うかもしれませんし、いやむしろ仕事とはそういうものであるということすら言えるかもしれませんが、旅館業、広くは観光業に従事する一員として、真に充実した意義のある仕事を長く続けていくために、地域との繋がりをしっかりと感じることができる環境が必要だと感じました。せっかく地域を盛り上げる仕事をしているのだから、地域に愛着を感じてほしいし、そういう機会を仕事と切り離したところで主体的に持ってもらうというのは、このような限界地域においては簡単ではないのです。
そのためには、偶然性・偶発性の設計からはじめなければいけません。今まで話したことがない人と話すとか、知っていそうで知らなかった話を聞くとか、そういう、約束されていない外部とのコミュニケーションの機会をつくる必要があります。旅行や観光の醍醐味は、本来そうした偶然の出会いにあるはずですが、立場が逆転してお客様をお迎えする側になると、これがなかなか難しい。一期一会とはいうものの、お客様をご案内する流れは一緒で、話題はだいたい一定領域の中に留まるため、冒険はありません。
そこでゆう星館が登場します。山人ではできなかったこと、やりづらかったことを、ここでなら表現できるのではないか。地域の人たちにもっと山人を理解してもらい、従業員にも、日常業務の外で地域の人たちと関わってもらう機会をつくること。
コロナ以降、キーワードとして温めていたのは「町に開かれた山人」です。いくつかの試みは2023年から少しずつ始めていたのですが、いずれも半クローズドなイベントでした。したがって今回の山人万博が、一般開放としてははじめてのイベントになります。
山人万博(β)で何が行われるのか
半年以上前からアイデアを考え、社内で検討チームをつくり、どのような内容にするか話し合ってきました。真っ先に思い浮かんだのは、従業員の作品展示です。写真やイラストなど、これは簡単にアイデアがまとまりました。よその地域から西和賀に来て、こういう才能を生かして西和賀で頑張っている、ということを端的に表現できると思いました。
続いて、厨房からの南部かしわの料理提供。南部かしわは、岩手の正式な地鶏でありながら、流通量が少なく、県内で生産される総数のうち半数以上を山人が担っています。つまり比率だけでいえば、西和賀は南部かしわの一大生産地であるということが言えてしまうわけですね。総数があまりに少ないので、実際にそう表現するのは憚られるのですが……。
町内から、各事業者様にも出店をお願いしています。西和賀の商品ブランド「ユキノチカラ」シリーズをはじめ、工芸団体のN*Crafts、その他の独立系事業者さんたち。いつも密接にやり取りさせてもらっている皆さんというよりも、この10年間で台頭してきた新しい担い手の方々を中心に声をかけさせていただきました。
町民にとっては、今となっては見慣れた商品、ブランドが多いかもしれませんが、こうした新しい事業者さんに集まっていただくのも、上述した偶発性の理念によるものです。いまの山人-yamado-とはまだ関わりがそんなに多くないけれども、イベントを通じてどんなきっかけが生まれるかわからない、その偶発性に期待したいという思いをこめています。私としても、もっといろんな事業者さんとの関わりのかたちがあるはずだと思いながら、なかなか実現できていなかったもどかしさがありました。
ほかにも、山人として、新商品のテスト販売や、新しいロゴのお披露目、郷土料理の達人によるビスケット天ぷらの実演調理など、ミニ企画を考えております。
ちなみに、あまり大きな声で言うと権利団体に目をつけられそうなので小声で言いたいのですが、会場にはKAWAIの「Shigeru Kawai SK-5」というグランドピアノも置いてあり、ストリートピアノとして自由に演奏していただけます。ストリートピアノで演奏される楽曲に関して、著作権と楽曲使用料の支払はどうなるのかという問題はいろいろとあるので、ここではこれ以上は書きませんが、いずれにせよ来場者の方々は、現地の利用ガイドラインに従ってさえいただければ、自由に体験していただくことができますのでご安心ください。
以上、長々と企画背景を説明いたしましたが、開催まで残り1か月となりました。もう少しがんばって宣伝していかないと、誰も来てくれないんじゃないかという不安が……。
2024年6月9日(日)です。みなさんぜひお越しください。
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