え、グループですか
ユニバーサルスタジオジャパンに来ている。
1人でレストランに入った。ウェイターさんに案内された席は男女カップルの横だった。
僕はオレンジジュースだけ頼んだ。
3Dのアトラクションでグロッキーだったからだ。
*
グロッキーになった後、全然回復してこない。急速充電じゃないコネクターでスマホを充電する時ぐらい、回復してこない。だから家族と次のアトラクションに乗れない。
「俺はいいや、3人で乗ってきて」
妻と子らがスパイダーマンに乗る間、僕は1人でレストランに入った。
「ラストオーダーが20時ですがよろしいですか?」
大丈夫です。
僕は時間を潰すためだけに入るのだから。
僕の左は壁、僕の右はカップルだ。カップルのさらに右空間には空席が広がる。もうラストオーダー前。皆帰り始めてるのだ。
注文した100%オレンジジュースが届いた。
僕はお冷やとオレンジジュースでグロッキーになった体を醒ましながら、家族がスパイダーマンから出てくるのを待っている。僕は待っているだけだ。
100%オレンジジュースを飲むだけで、特に食事の必要はない。今仮に食事したらすぐにリバースだ。僕は静かなるドンのように黙って座っている。
空席が目立ち始めてるが、僕とカップルは密だ。
カップルはどうやら食事もデザートも済んだ様子だ。早く帰れ。僕はグロッキーで1人で座ってるのに、周りは空席なのに、カップル席と御一人様席が近々なんて、俯瞰して異様だ。
「え、グループですか?」
知らない人が僕ら3人を見たらグループと思うだろう。それぐらい近々だ。
ウェイターさんはなぜここに僕を案内したんだ。ウェイターさんはアルバイトかもしれない。でも、ユニバやディズニーのスタッフさん(クルー、キャスト)はただのバイトの域を超えた集団だと思っている。ユニバのレストランのウェイターが、カップルと御一人様の席を分けないとか、そんなミスをする筈はない。ウェイターさんは職務の原則に忠実に動いてくれただけだ。たまたま時間帯と、僕がおびき寄せる間の悪さが悪い風にバッティングしただけ。ウェイターさんは悪くない。
そうは言っても、僕がこうやって振り返られるのは完全に事後だからだ。その時には、この席に連れてこられた不運と職務に忠実なウェイターさんに、念力を送った。
分けろ、さもなくばカップル早よ帰れ。
Divide,or get out.
飯を終えたカップルは帰るかと思いきや、女の人の対面にいた男の人が、女の人側に移動してきた。
そして女の人は泣き出した。
もう何がなんだか。
事情は分からないが、御一人様の僕と席を密にするカップルの周りは空間が広がっているという事実だけが、忽然と宙ぶらりんになっている。「忽然」の用法が間違ってる気はするが、今は致し方ない。
しくしく泣き出した女の人を、男の人はトントンしている。事情は分からないが、どうせ泣くならレストランから出て泣いてくれないか。もう飯は終わっているだろう。
僕は異世界に入ってしまったようだ。僕の右は女の人をトントンする男の人、その右はしくしく泣く女の人。僕らは太陽系の惑星直列現象のように近々で横並びとなり、僕は異世界にワープさせられた。
注文した100%オレンジジュースはとうに飲み干したものの、もうしばらく直列現象と付き合う他はなかった。