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知らないほうが幸せ

知らないほうが幸せなことはよくある。

シャツの端っこに納豆の粒をこぼしていて、知らないうちに潰して何だか分からないものになっていた。

知ってショックは倍増する。知らないほうが幸せだったろう。


知らなかったのだが、納豆の粒だったが為に、においでわかった。「何かかぐわしいな」と思ってその方向を見たら、その「何だか分からないもの」が引っ付いていたというわけだ。一見「何だか分からないもの」なのになぜ納豆と判別したかというと、よくよくまじまじと目を近付けて観察し、そのにおいと色と潰れた形状の情報をリンクさせ、納豆だと結論付けたから。

潰れた納豆だと知ってショックはさらに倍増する。知らないほうが幸せだったろう。


何のシャツに付いてたかというと、寝巻きにしているドライTシャツだ。寝巻きのドライTシャツなんてべつに一張羅でも何でもないし、洗えるしすぐ取れるし、仮に見ためシミが残ったとて所詮ただの寝巻きだからそこに関してはそんなにショックではない。

しかしそこは寝巻きだ。知らずに納豆を付けたまま寝床に入っていた。

知らずに寝床に入っていたと知ってショックはさらに倍増す。

布団に被害は?
心配と不安が押し寄せる。

そんなことならもう朝までそのまま行ってしまやぁ良かった。朝まで行って服を着替えて知らないまま洗濯しとけば幸せだった。なぜ気づいた?

未明にトイレに起きた。便座に座り、両ひじを両ももにそれぞれ着き両手首を垂らし、頭と体を前にうなだれて何かに絶望した人みたいな姿勢を取っていたけどただ寝ぼけて何も思考せず体がダルかっただけだ。

自ずと顔とシャツの端が近づく。
「何かかぐわしいな」
それは「何だか分からないもの」になった納豆の粒だった。

知らないほうが幸せだ。