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僕の声が届くまで

病院で理学療法士をしており、担当する患者さんには高齢で難聴の方がままいる。

原則は「耳元ではっきり短く端的に」。その辺り、高齢の方と接するのが得意とかただそんな次元ではなく、スキルとしての自負がある。安全にリハビリテーションの効果を出すために、患者さんにはこちらのやって欲しいことや意図を理解してもらう必要があるからだ。


―こんにちは。今からリハビリ室まで行きますね。起きて頂いていいですか?
「はいはい」

―一緒に起き上がりますね。
「…」

―靴履きますよ。
「ん」

―こちらの車椅子に移って頂けますか?
「…」

―一緒に立って移ります。しっかり立ちますね。せーのっ
「…んんんん」

―バッチリです。大丈夫?痛いところなかったですか?
「…」

―OK~そしたらリハビリ室まで行きましょ~
「…」




そうだ。
僕は声がこもっているんだった。
そういえばそうだった。
一発で聞き取ってもらえたためしはない。

僕は僕の声が届くまで。
こうやって続けていく。