聞こえてなくて聞こえてるフリをすることがある
数人の輪の中の会話。
輪の中。
こんな僕でも会話の輪に入れてることはある。
もうちょっと近づいた方が良かったんか?
いや、んー、そんな離れてるという距離でもない。
僕以外の人ら同士の間隔と、僕と僕以外の人との間隔は、同じぐらいの間隔だ。
耳遠くなったんか?
でも今に始まったことじゃない。
子どもの時から輪の中にいながらにしてちゃんと聞こえないことがあった。
聞こえない頻度は昔から変わらん。
昔から耳遠いんか?
それはないわ。聴力検査は平均ぐらいや。
耳つまってんのか?
それはないわ。耳掃除はしてるわ。
みんなが僕に聞こえんように声のボリュームをわざと下げてるんか?
だとしたらそれは最早輪の中に入ってるとは言わないな。
聞こえないいくつかの可能性は消えた。
その上で、輪の中にいながらにして聞こえてないことがある。
話、聞いてないんか…?
その可能性ある。
なんとなく雰囲気だけ輪の中にいることを味わって輪の中にいるということで満足した挙げ句、
話聞いてない可能性、
ある。
全く聞いてないことはないけど、肝心なとこ聞いてない。聞き逃す。
そして往々にして、聞き逃したとこは大事なキーワードであり、大事なキーワードであるにも関わらず、1回出てきたらその後再び俎上に載せられることがない。でもみんなは直接口に出さずに、まるで「名前を言ってはいけないあの人」のごとく、そのキーワードについて話し続ける。
その話題の間、僕の頭の中にはハテナが飛び回っている。
大事なキーワードとは、
誰かキーマンの名前であったり、
ある特定の行為であったり、
日にちや時間であったり。
僕が聞き逃す瞬間というのは、
外部のノイズに遮られたり、
僕がそもそも輪の雰囲気だけを味わってる関係上、よそ見をした刹那にキーワードが飛び出していたり。
でも他のみんなには聞こえてる。
(あっ、やべ…)
そう思った時にはもう遅い。
(今のはほんまに僕だけが聞こえてなかったのか?)
心の底からそう思う。
で、
聞こえてるフリをする。
聞き返したらいいのかも知れないけど、
聞き返すことでその話題のボルテージが瞬間冷却されることだけは避けないといけない。
「聞き返してもボルテージに影響しないタイミング」というのは極めて短い。ほぼゼロと言ってもいい。
「え、なんてなんて?」
「え、だれだれだれ?」
「え、何のことやったん?」
「影響しないタイミング」がほぼゼロということは、これらを聞き返して場が保たれる確率もほぼゼロだ。
「え、なんてなんて?」
「え、だれだれだれ?」
「え、何のことやったん?」
…聞き返した日には、もうおしまいだ。
で、
聞こえてるフリをする。
聞こえてないことは、
いや、聞いてないことはバレてるだろうな。
僕は聞き逃す惑星のもとに生まれている。
そんな惑星のもとに生まれてるのだから、
人一倍努力して聴こう。
聞き逃すまいとしよう。
人一倍努力して間隔を縮めよう。
人一倍努力して距離を縮めよう。
ソーシャルディスタンスに負けない。
僕は聞き逃さなくなるまで、聞こえてるフリを続けよう。
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