「お箸いいです」
聞かれたことだけに答えたらいいのに、余計な気を回すから恥ずかしい思いをする。客としては聞かれたことだけに答えておけばいい。コンビニ店員さんにはマニュアルがある。僕もそこに乗っかっておけばいいのだ。コンビニというのは、決まったレールに乗るだけで何の不便もなく必要な用事を済ませられるところ。客に思考は必要ないのだ。
今日の年配女性の店員さんは、僕の「お箸いいです」の一言に対し、「あ、はい」とだけ言った。こんな僕みたいな人は多いのか?店員さんは慣れているようだった。
コロナ以降はお箸などのコンビニアメニティはセルフサービスになったということを、コンビニをほとんど使わない僕は最近知った。お箸の必要性を検討する商品を、自分一人だけで買うことがなかった。要はお昼ごはんをコンビニで買うことがほぼなかった。あってもサンドイッチだからお箸の必要性は検討するまでもない。数年前の癖で、レジというレジに行けば「お箸いいです」や「袋いいです」を条件反射のように言っていた僕のような人種が、コロナ後にも同じことを言っていたとすれば、店員さんは(あ、このテの人種ね)と慣れきっているに違いない。
店員さんは僕のことを思ってか、ただめんどくさかっただけか、「今はあちらからお取りいただいてます」などと、わざわざ指摘せずにいてくれた。いや、僕がもし「お箸3膳お願いします」と言っていたら「あちらからお取りください」と言われたろうが、「お箸いいです」の人に対して「今はあちらからお取りいただいてます」と返すのはただのイジワルな人だ。店員として、自分がお箸を渡そうがあちらからお取りいただこうが、「お箸いいです」の人に対しては逆に何と言葉を返したらいいか分からない。「あ、はい」以上でも以下でもないだろう。
店員さんはべつにマニュアル通りに対応したのではない。僕が困らせただけだった。
きょうびコンビニで「お箸いいです」の一言は、店員さんや地球への配慮でもなんでもなく、ただ、恥ずい。