石焼きいものおっさん
総合公園のフリマイベントなどに合わせ、石焼いものおっさんも現れる。「北の国から」の田中邦衛さんみたいな帽子にトレーナーにダウンベスト、作業着ズボン。なんとしっかり防寒しているのかと思えば、素足にサンダルだ。無精ひげとヤニ付きの歯でにこやかに対応してくれる。頭の先から足の先までトータルコーディネートがいい。
駐車場の端にその軽トラは停めてある。石焼いもの唄を車から流しながら、石焼の機械音なのか、どっから出てるのか分からない「ピーーー」という高音も一緒に響かせている。
軽トラに僕が近づいていくと車の陰からおっさん。
遠めから会釈したけど向こうから会釈返しがない。
僕が客と認識していないのかも知れない。
もう少し寄ってから会釈しよう。
もう少し近づくと荷台のいも焼き機の前にもう1人おっさん。
同じような格好の2人のおっさん。
会釈返しのなかったおっさんの方がもう1人のおっさんよりも10ぐらい若そうだけど、基本は同じようなおっさんだったからどっちが主人たるおっさんで客たるおっさんか判別できない。
いも焼き機の前でこちらに背を向けながらなんかぼそぼそ言ってるけど何を会話しているか、手元の動きから想像するしかない。おすすめのいもを吟味しているのか?
もしや共同経営かも知れない。2人とも主人たるおっさんの可能性はある。
だとしたら、今のところどちらからも会釈返しがないから共同経営としては失敗だ。僕はしっかり分かるようにおっさん2人の顔を見て何度かうなずき仕草をしたのだから。年を取っても接遇はやはり会釈が基本だ。おっさんからしたら僕に言われる筋合いは全くないが、正論としてはそういうことで違いない。
「お先やで。ちょっと待ってな」
10若い方のおっさんが僕に水を向けた。
このせりふではまだどちらが主人か客か分からない。
10若い方が、もう1人のおっさんから4本のいもを茶色の紙袋に入れてもらい、サンダルを引きずりながら軽トラを後にした。
主人と僕が残った。
僕は客たる10若いおっさんから気を遣ってもらい、主人たるおっさんからはまだ気を遣ってもらっていない。
この時点で僕は主人たるおっさんから会釈返しをもらっていない。まだ言葉も交わしていない。
僕の方から「小さめの1本」と注文。「小さめのね」主人たるおっさん。
僕は500円玉を渡す。おっさんはビニール手袋をしている。そのビニール手袋の手でダウンベストのポケットからお釣り100円玉を出して僕にくれた。
おっさんはそのビニール手袋の手で小さめ1本をいも焼き機から選んで「こんでええか?」。僕は「うん」。
紙袋に入れて僕においもを渡す。
僕においもを渡してからおっさんはビニール手袋を外してズボンのポケットにねじ込んだ。
何目的の手袋だったのか。
「おおきによ」
無精ひげとヤニ付きの歯でにこやかに対応してくれる。
「ありがとう」
「人生100年時代」
僕は独りごちながら軽トラを後にした。