こんなやつおらへんと思う。
ちょっとグレード高めの公衆浴場で、サウナ初心者として何とかととのわむと、試行錯誤している。いずれにせよ気持ち良くなればいいので、ととのいの真似事を繰り返し、ぽかぽかしながら脱衣所で服を着た。
ぽかぽかの状態で厚手のパーカーを羽織るのは汗を助長するが、すぐに寒い外に出るのだから気にしない。やや汗ばんだまま、ロッカーキーと靴箱のキーを左手首に付けたまま、ドライヤーをした。
髪の毛の水を左手で飛ばしながら、カチャカチャと脱衣所にキーの音を響かせる。
さあ、帰らむ。
なんじゃこれは。
2つのキーが絡み合っているじゃないか。
このスプリングのコード部分というのか、この名称不明な部分が、知恵の輪の様にしっかり噛み合っている。ただ左手を振ってただけなのに…
知恵の輪を解く難易度もさることながら、この後解けなかった時の恥ずかしさが先に想像された。
(こんなやつおらへんやろ)
ここはちょっとグレード高めの公衆浴場。2つのキーをドライヤーしながら絡ませてほどけなくなるようなどんくさい人の来るところじゃない。富裕層寄りの人たちの場所だ。僕は平民だが、福利厚生を享受してここにいるだけだ。富裕層はキーを絡ませてほどこうとしてより絡ませるようなことはしないだろう。
すぐに寒い外気に触れる予定が狂ったので、僕はWORKMANの厚手のパーカーを来たまま汗だくで知恵の輪と格闘した。
汗だくで受付の方に謝った。
「あっ。はぁーい」
意外とあっさり絡まったままのキーを受け取ってくれた。
意外と富裕層も絡ませてるのかもしれないな。