人にお願いするのが苦手だ
人にお願いするのが上手な人と人にお願いするのが苦手な人がいる。僕は後者だ。「上手な人」というのは、取り立てて「持ち上げるのが上手」とか「懐に上手く入り込む」とかそんな狡猾なテクニックの人のことではなくて、お願いする時に適切な言葉でしどろもどろにならない人のことを僕は言っている。
僕の気の置けない後輩は前者で、何でも達者だ。本人は謙遜するが、何でも達者だ。僕は人へのお願いの際に、緊張してしどろもどろになるか、緊張はしなくても当初予定していなかった不適切な言葉を言ってしまうかで、何せ苦手意識が拭えない。不適切な言葉を言ってしまう原因のひとつに、間を恐れて(沈黙を恐れて)矢継ぎ早に言葉を入れ込んでしまうことがあるんじゃないかと考察している。何か喋っていないと不安になるものだから、不要な言葉まで挟んでしまい、それが図らずも不適切な言葉を選択し、何か微妙な空気にしてしまう。「「図らずも」なんて言い訳だろ!そんな時に人間本音が出るんだろ!」と罵倒されることがあるが、本当に図らずだからどうもこうもない。
相手がそんな僕のバックグラウンドまで理解してスルーしてくれるタイプであれば問題ないが、場合によっては僕のその言葉が地雷になることもある。妻に対して僕は地雷をよく踏む。妻は僕のバックグラウンドを死ぬほど理解してくれているが、僕はそこに輪をかけて不適切な言葉を挟むことにより、映画「スピード」冒頭でエレベーターに仕掛けられたようなプラスチック爆弾のような規模感の地雷を爆破させる。話が逸れた。
後輩といっても、もはや既に尊敬すべき同僚だが、彼はポイントを押さえる人だ。僕が思うに、ポイントを押さえる人は、他で仮に不足があってもポイントを押さえていることにより必要十分と評価され、常に安定的なパフォーマンスを見せてくれる。そんな必要十分すぎる彼に助けられ、今がある。
僕が今後「お願い業界」に長く所属し続けるなら多少の所作は身に付くかも知れないが、果たして「お願いスキル」が今後爆発的に伸びるとは到底思えない。そして僕は「お願い業界」に長く所属することはない。そもそも「お願い業界」などという「お願い行為」を主体とした業界は存在しない。「お願い」とはそもそも主たる行為ではなく従たる行為だ。主たる行為をより補強する目的の、従属する行為な訳であるからして、「お願い業界」などというすっとこどっこいな業界は存在しない。だから僕がそこに所属する可能性はゼロだし、現時点のレベルから「お願いスキル」から爆発的に伸びる可能性もゼロだ。
だから今後も人にお願いするのは苦手であり続ける。だからこそ、お願いするのが上手な人に近くにいて助けてもらいたい。僕はこれからもお願いするのが上手な人の近くにいられるように生きていく。
余談だが、「お笑い業界」と言う時のイントネーションで「お願い業界」と書いたつもりだ。