90,000キロ
走行距離が90,000kmを示した。
今まで当然ながら、80,000もあったし70,000もあっただろう。しかし各々の瞬間に僕は立ち会うことができなかった。
90,000は別に89,999とも90,001とも大差なく、ただ自然数のひとつに過ぎない。だから計器が回転する途中の状態に過ぎない。それでも、今まで80,000や70,000の瞬間に巡り会うことはなかったのに、この度の90,000のこの瞬間にたまたまタコメーターに目を遣ったことは、偶然にせよ、何かしらの運命の予感を禁じ得ない。
その前段階でネズミ捕りを発見し、思わず速度を気にしたのかも知れないし、ただただ右から左へ首を回旋した時に動体視力を発揮し、90,000の数字に驚き2度見したのかも。
もしくは、タコメーターが僕を呼んだのかも。僕は自分で距離を見に行ったつもりが、実は無意識下でタコメーターの精に呼ばれていた可能性もある。
それはない。