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受診付き添いのスキル
一日の間に、祖母の受診と次女の受診、2件の受診に付き添った。祖母は、定期処方を切らし、再処方をしてもらうためにかかりつけ医へ。次女は、ものもらいのでき初めのようなまぶたの痛みがあり、眼科へ。
2件とも滞りなく付き添いを済ませた。
受診というのは意外と簡単ではない。
「何が?」
自分が自分事として一人で受診するのはなんていうことはない。
問題は付き添う場合である。
受診の付き添いにはスキルが必要だ。
受診する本人たち(祖母と次女)の症状を把握し、経過を把握し、普段の生活状況を把握し、服薬状況を把握し、医師の問診に対して補足をし、医師の指示を確認し、院内の移動の介助をし、支払いの介助をし、処方薬をもらう。
以上はいずれも普通のことだが、問診時の医師への配慮や待合室での他の患者への配慮は、付き添いスキルとして特筆すべきである。
医師は患者と世間話をしたい訳ではない。言ってしまえば、経過と症状を聞き出し最適な処方につなげたいだけである。そのためには、問診に対し客観的に端的に回答することと、こちらから医師への余分な質問を省く工夫が要る。ゆっくり患者の話を聞き出そうとしてくれる医師はいる一方、混雑時には回転を上げる必要から苛立ちを隠せなくなってくる医師がいることについても、私は、理解と共感と忖度を示すタイプの患者であり患者家族である。
多くの人は医療とは別の業界で暮らしている。インターネットが医療知識を普及させているとはいえ、病院慣れしていない人が受診の付き添いをするのは、ある種緊張を伴うものではないかと推測する。
私自身が医療従事者であることは、受診の付き添い時にはアドバンテージになる。医師の説明と指示に対し、補足を求める必要はほぼなく、仮に質問するにしても必要十分な質問に抑えられる。池上彰さんだったら「いい質問ですねー」と絶対に言ってくれるような質問をすることを心掛ける。
テンポよく問診・診察が進めば、苛立ちかけていた医師が心なしか機嫌を取り戻してくる風にも見える。良いか悪いか、とにかく医師に対して「ものわかりの良い患者・患者家族」として振る舞うことが、受診付き添い時のスキルのひとつである。
もうひとつは待合室での振る舞い。患者で混み合った時間帯に受付・支払いをのんびりしているわけにはいかない。患者の多くは高齢者だから全体的にゆっくりになるのが常だが、付き添っている以上は祖母のペースを補助してこそなんぼである。待合での回転を上げること、少なくとも回転を落とさないことに貢献するのが、付き添い者の心得と認識している。
支払いを済ませ隣の薬局へ移動する。処方箋を提出。狭めの薬局につき待合も狭め。私たちの後ろから別の患者さんがやってきて通路を通ろうとしている。通路を空けるように動線を確保。次女は「ご自由にお取りください」のアメを物色。アメを口に入れた後のごみをどうしようかと手持ち無沙汰にしている様子。考えの先回りをして次女の手からごみを取ってくずかごへ持って行く。我ながらスマートな父親だ。公共の場で私はスマートな行動を取れている。私、グッジョブ。
いや違った。アメ玉の袋に書かれていた絵をまだ見たかったらしい。それを勘違いして勝手に取って捨ててしまった。スマートに見せかけて自分に酔って結果間違っているというときほど、ダサさが際立つことはない。
薬剤師さんの処方の説明を聞く。ものわかりの良いふりをして聞く。ありがとう、薬剤師さん。薬剤師さんにとってはルーティンとなっているかもしれないが、そこには毎度個別に重要な情報しか含まれていない、これぞ必要十分というべき説明の文言がそこにはある。
受診の付き添いは緊張する、やはり。ものわかりが良く、医師やスタッフさんたちの邪魔をしないことが、付き添いスキルの肝と考えている。
そんなことばかり考えているから次女のアメの袋を捨ててしまう。