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そろそろほかの美術館も観てみたい

公園の散歩の途中、公園の中にある美術館に寄った。
いつもと同じ美術館、今回で4回目だ。

今回も当地域にゆかりの南画家の企画展。
僕が通い出してから、南画企画展が2,3回に1回の頻度で開催されている。たまたまだと思うけど、僕に南画を当てに来ているのかと思う。僕の南画の造詣を深めにきてくれているのかも知れない。

ほんとはピカソとかラッセンとか観たい。よく分からないけど洋画とか観たい。洋画が無理でも、もっと日本史資料集で見るようなやつを観たい。でも地方の公立美術館だから、どうしてもご当地ゆかりの画家が中心になることを理解する。僕は一応大人だ。

いつも通り、正式の自動ドアから入館する。裏口の入館ルートがあるかのような言い方だけど、裏口ルートはない。公立だけど建物が公民館然としておらず、なかなかデザインされた佇まい。そのおかげで、正面玄関含めその両サイド周辺がガラス張りになっていて、遠目からは自動ドア自体にも自動ドアらしさが見られない。近づいてやっと自動ドアかその両サイドのただのガラスかが判別できる造りになっている。
なので、ただのガラスの方に近づいて自動ドアが開くのを待つという数秒弱の恥を被らないよう、4回目の今日もおそるおそる正式の自動ドアから入館した。公立だけどなかなか手こずらせてくれる。

自動ドアに入ってすぐに、「靴消毒マット」がある。前回、消毒液の名残で入館中キュッキュと鳴る靴の音に悩まされ続けたので、展示品へ集中するため今回は靴の消毒をスルーした。僕はまじめな美術鑑賞者だ。

そしてその次に置いている手指消毒液もスルーした。
(もう別にいいだろう)という僕個人の判断だ。

受付の人はやはり声量が小さめだ。いつものように何を言われたか分からなかったけど、たぶん「消毒どうぞ」と言われた。でもほんまに何て言ったか分からんかったから、聞こえてないことにして消毒はしなかった。聞こえてない風にして入館料の準備をしていたら、もう受付の人も消毒の促しを諦めていた。ありがとう。

通常入館料(特別展はたまに600円)の260円を用意する。小銭入れに10円玉がいっぱいだ。16枚ぐらいは10円玉で出せそうなぐらい10円玉が多かった。わざと10円玉16枚出してちょっと困らせてやろうかなと一瞬思った。でもそんな迷惑なことをわざとする意味が全くないので、200円と、10円玉6枚で手を打った。

「展示品にはお手を触れないようお願いします」

大丈夫、触れません。でもその分顔をしっかり近づけて南画の細部まで鑑賞させて頂きます(心の中で言った)。

そもそも南画とは中国の南宋画に由来するようで、水墨画風の画風だ。掛け軸や襖に描かれる、どちらかと言えばモノトーンで曇天から雨天が中心の画風。美術初心者の入り口としては間口が狭く、気分が上がりづらく、率直に言ってfunnyな楽しさを得たい人向きではないと思う。そしてこの美術館は、たまたま当地域に南画家が多いからなのか、美術初心者の僕に南画を当てにきているからなのかは分からないけど、ここ4回中2回が南画展だ。確実に言えることは、おそらくたまたまだ。

南画は中国奥地の切り立った岩山と川をモチーフに、自然を中心に描かれていることが多い。その中に人の姿はごくごく小さく添えられる。南画の人の描写はオマケかのように小さいけど、なんか可愛い。東屋の中で物思いに耽る仙人や小舟で作業する川漁師。そんな人物描写は至近距離じゃないと鑑賞しきれない。おのずと顔を近づけることになる。この所作の是非はあるかも知れないけど、結構楽しい。なぜ楽しいのか考えてみたら、たぶん『ウォーリーをさがせ!』と似ているからだと気付いた。一旦「ウォーリー」みたいだと思ってしまったら、そっから「ウォーリー」が頭から離れなかった。僕はまじめな美術鑑賞者だ。

そこに腕組みしたり後ろ手を組んだりといった所作が加わる。時々めちゃくちゃ小声で(ほぉぇー)とため息を吐きながら両手を後頭部に持って行って指を絡ませる。傍から見たら、いかにも知っている人みたいに引きで観たり近づいたりして鑑賞した。でも僕はずっとウォーリーを探していたのだ。

僕の観たことのある南画では、滝や峡谷が描かれがちだ。
南ヨーロッパ風の街並みを逃げ回るウォーリーではなく、滝や峡谷に隠遁するウォーリーを探すのも風情だ。


今回も入館者について回る学芸員さんがいた。これは美術館業務として定められているのだろうから仕方ない。ただ、今回は僕の他に2組の老夫婦がいた。僕含めて入館している鑑賞者は5名。対する学芸員さんは1名。ついて回るためにだけに2人以上の人員を割くことはできなさそうだ。5名の鑑賞者はそれぞれのタイミングで、めいめいの歩幅で、思い思いのスピードで鑑賞して回るので、1人の学芸員さんは見張りきれていない。気の毒にも感じたから、ちょっとゆっくりめに鑑賞して回った。しかし5名のスピードがそれぞれ違い過ぎたので結果、僕は見張りの学芸員さんを撒く形になった。


僕はまじめな美術鑑賞者だ。


今日の収穫は「賛」の意味が分かったこと。作品の説明文に「賛」とあるのだけど、初心者には分からない。説明文の説明文もほしいぐらいだ。そこで「賛」の意味をスマホで調べた。学芸員さんに見られていたけど、作品を撮影するといったやましい行為はしていないのでしっかり調べた。南画に添えられる漢詩を「賛」というようだ。「自画自賛」の「賛」だ。勉強になった。