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イラついても イラついても ついていかなあかん(山頭火)

車のオイル交換に行った。

オイルとエレメントの交換、ものの15分の作業時間。
車検の時にもらっていた無料券を使う。
店内の待ち合いには、無料の紙コップ自販機がある。今日はホットコーヒーのブラックを濃いめmaxで。
何かと細部まで行き届いていて、とても居心地がいい。
WiFiもあるし、30分~1時間ぐらいでもストレスなく待てそう、そんな空間のお店。

いつも通っているお店だからだけど、でも通う理由は他にある。
そこのお店では実際のモノ以上のものを売っておられると、僕は思っている。

対価はオイルとその作業に対して正味支払うんだけど、受付の方・整備士さん全員の対応がとても丁寧で、嫌なところが一つもない。徹底されているのがよく分かる。車検やオイル交換などは選ばなければどこでもできるし、価格競争にも限界がある。

(…「その中で選んでもらうには?」を考えて行き着いた方策の一つがこの接客サービスの統一なんだろうな。その上で極めつけに無料券と無料自販機があるから、もうリピーターの心掴んでるな。最強やな)

待っている15分の間、濃いめのブラックを飲みながら勝手に想像を膨らます。



その時、そのおばちゃんは殴りこんできた。

「殴りこんできた」とは言えど、ややイラついてる程度であって、激怒している様子ではなさそう。勢いと声のデカさにおいて「殴りこんできた」という表現がしっくりくる。

「ちょっとなぁよ、あたしこの機械で入れるのなんかやったことないから一緒に来てあんたやってら」
「私乗せてくから一緒に来てやって。な?」

中堅ぐらいの男性スタッフさんが対応する。


何かの振り込みをしてくださいと説明を受けて、一旦駅前のATMまで行ってはみたものの、やり方が分からずイラついて戻ってきたと…
たぶんそんな感じ。

「あたし窓口でしかいっつもせえへんねん。こんな機械で入れるのわからんからできへんねてよ。あんた一緒に付いて来て。」

付いて来てと言ってるけど、この店から駅前のATMまで車でまあまあの距離がある。

(業務中のスタッフさんにそんな個別対応お願いするか…)

まぁおばちゃんの立場に立ってみると、それだけ自分にとって意味不明な要求をされて半ばパニックになっている、とも取れる。

「ちょっとお待ちくださいね」
中堅スタッフさんは一旦中に引き上げる。

おばちゃんは待ってる間、テーブルの上の"自由に"取っていいあめちゃんをガサガサ品定めしながらいくつか取って、"自由に"自分のカバンに入れている。取り終わると、隣のテーブルのあめちゃんもいくつか取ってカバンに入れる。

ほどなくして、中堅スタッフさんはおばちゃんの車に乗って出て行かれた。


おばちゃんの要求は理不尽だったのかどうか、よくわからない。
客の要望を何でも受け入れるわけではないだろうけど、結果的に見れば、今回のお店側の対応は「付いていって一緒に振り込みをする」の一択だったのかなとも思う。付いていくのを断る代わりに何か別の手段があったかも知れないけど、付いていったことでこのおばちゃんからの店への信頼は、結構確かなものになったのではないか。おばちゃんだから口コミも広がるだろうし。知らんけど。

僕にとってはこんなに丁寧で満足度の高いお店なのに、こんなにイラついてツッケンドンな物言いをするお客は、傍目に見て嫌だなと思う。
しかし一方で、自分がそんな客になる可能性を少し憂う。

今回は場合は、ATMか何かしらの機械での支払いができないとのことだった。このおばちゃんは、キャッシュレスどころかあらゆるものが機械化された世界で生きづらいんだろうと思う。
デジタルの波が苦痛で仕方ない人たちは一定数いる。

もっとデジタルが進んで世界が変わってきた時に、自分がそこについて行けるかどうかは、今の今からついて行ってるかどうかじゃないか。明日は我が身。おばちゃんを笑うことなかれ。

おばちゃんについて行くという決断をしたお店に敬意を表すると共に、僕もデジタルの波に食らい付いていく。


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