距離をとる[ドメスティックバイオレンスをうけたら その3]

すみやかに距離をとる

 配偶者からの暴力をうけた場合にやるべきことは、すみやかに距離をとることです。特に、配偶者と1対1になる状況は出来る限り避ける方がいいと思います。経済的な問題、物理的な問題、子どもとの関係など、いろいろな理由がからみあって、難しい場合もあると思います。しかし、わたしが電話したDV支援の相談センターの人、DV被害をうけた友人の意見はまず相手から離れるようにということでした。

離れる3つのメリット

 わたしがすぐに離れた方がいいと思う理由は3つあります。1つ目はさらなる被害を防ぐため。2つ目は相手の感情や言葉に取り込まれるのを防ぐため。3つ目は暴力からうけた傷の回復をはかるためです。

 1つ目については、一度暴力をふるうとまた暴力をふるう可能性は高くなります。そして、一度暴力が許されるとだんだん暴力をふるっていいかどうかを判断するハードルが下がります。暴力をふるわれることが当たり前になると、最初感じていたおかしいとか変だという気持ちが薄れてきます。そうなる前に離れる必要があります。
 2つ目については、暴力をうけたあと被害者は混乱します。気持ちが不安定になっているときに、相手と対峙するのはよくありません。なぜなら、相手はよけいに不安定にさせる存在だからです。そして、不安定な状態で一緒にいると、相手の感情や言葉に取り込まれやすくなります
 3つ目については、暴力をふるわれることは予想以上にダメージが大きいです。たとえ1回だけでも、けががなくても、信頼している人から理不尽な暴力を受けることは大きなストレスです。そのストレスはケアされなければなりません。放っておくと回復が遅れます。

離れるタイミング

 いつ「離れる」という判断すべきかというのは重要な問題です。どこで見切りをつけるべきかというのは、誰もが行き当たる問題でしょう。再構築の方法を知りたい人には申し訳ありませんが、わたしは「暴力」が起こった時点で二人の関係は終わりだと思っています。なので、離れることが前提で書いていきます。
 経済的な問題、家族の問題ですぐに動けない場合もあるので、簡単に言えませんが、最善策は1回目があった時点ですぐさま離れるべきだと思います。大げさなことを言っていると感じる人もいるでしょう。しかし、傷を浅くし回復を早めるためには一刻も離れることが必要です。でないとだんだん暴力に慣れ、相手の世界観に取り込まれ、逃げる気力、体力、経済力が削がれていきます。

離れる決心をどうつけるか

 離れる決心をつけるために、特に覚えておいてほしいことは、ドメスティックバイオレンスの加害者にとっては、被害者は対等なパートナーではなく自分の優越感を感じるための道具、自分が居心地のいい生活をするための家事をしてくれる道具、性的な満足を得るための道具、経済的な依存先であるということです。加害者は被害者を支配することで優位に立ち、満足感を得ているのです。そういう自分を気持ちよくさせてくれるものをそうそう簡単に手放すはずはありません。すでに暴力をふるっていて、それでも自分の元にいると、加害者はこの程度なら大丈夫なんだというふうに、自分の都合のいいように解釈をします。恐怖ゆえだとかお金がないとか被害者の心情を考えたりはしませんし、その本心に気づいていてもそばにいるという結果から、本当の理由をねじ曲げてとらえます。
 加害者の暴力後の反応によって決心を削がれることもあるので、要注意です。チェックリスト等では暴力のあとすごく謝罪したりやさしくなるというハネムーン期が訪れるというふうに書いてあることが多いですが、これは人によって違うと思います。謝ったりすごくやさしくするだけでなく、被害者が悪かったからたたくのだといったり、最初から暴力なんかなかったことにしようとしたり、いつまでもこんな小さなことで抗議してくる被害者は頭がおかしいというようなことを言ってきます。自分にとって都合のいい道具を自分の手元に置いておくためなら、加害者はいろんな手を使います。このときに必要以上に相手の言うことを間に受けないようにした方がいいです。でないと余計に傷ついてしまいます。
 パートナーを信じたい、まだ好きだ、もしかしたら自分に非があったのかも、被害者のそんな気持ちに、加害者はつけいってきます。そんなときに相手の「もうしない」「もう一度チャンスをほしい」という言葉があると、相手を信じたくなると思います。しかし、期待をしない方がいいと思います。なんども裏切られる目に遭うと、自分の感情や信念を相手に曲げられていき、相手の都合のいい世界観の中に取り込まれてしまいます。相手の世界観は相手に都合良くできているため、それを軸にものを考えていると自分の判断力が鈍ってきます。さらに自分の感情や信念を押さえ込むことで、体調や精神の調子を崩す可能性が高くなります。そうすると逃げ遅れます。
 残酷なことを言うようかもしれませんが、「暴力をふるう人とは別れた方がいいだろうか」というようなことを考える前に、「暴力をふるった時点で終わり」だと考えた方がいいと思います

わたしの場合

 わたしは暴力をうけた後、相手への嫌悪感が出てきて一緒にいるのが無理になりました。配偶者への警告と抗議の意味も込めて当日は家に帰らず友人の仕事場に泊めてもらいました。その後1週間ほど近所のウィークリーマンションに泊まりました。実家は遠方だったために帰りませんでした。お金は実母から少額の援助がありました。
 配偶者からの謝罪や連絡はありませんでした。わたしは配偶者と義実家の関係性を考えたときに、彼らに入ってもらうべきだと考え、義実家にも事実を伝えました。いつまでもウイークリーマンションにいるわけにはいきませんので、一週間ほどして一端家に帰ることにしました。その際に実際にこれからどうするかという話し合いを行いました。舅と姑、実母と配偶者を交えて話し合いの場をもうけました。配偶者は一言もしゃべりませんでした。5者の話し合いでわたしは次に暴力があれば離婚する意志があると伝えました。
 わたしは暴力をうけたあと、不眠、胃痛、胸の動悸がはげしくなる、過呼吸に悩まされました。また、ときどきコントロールできない強い怒りに教われました。さらに、配偶者がわたしの後ろに立ったり腕を上にあげるとびくっとなり、一緒にいるのが怖くなりました性行為は配偶者への嫌悪感から生理的に無理になりました。寝込みを襲われるかもしれないという恐怖があり、寝室を分けました。
 帰ってから配偶者からの謝罪は一切ありませんでした。2回目の暴力をうけたあと、別居する決心がつき、配偶者の不在時を狙って引っ越しました。住所は教えませんでした。別居を決めたのは不眠等のストレスで、肉体的にも精神的にも一緒にいるのが無理だったからです。お金は会社員時代の貯金とパートと内職の給料を使いました。親の援助はこのときはうけていません。そのときは離婚の意志は固まっていませんでした。
 わたしはあのとき無理矢理にでも別居して本当によかったと思いました。また暴力をうけるかもしれないというストレスから解放されたため安眠できるようになりました。配偶者というストレスの元から解放され、家事が軽減されたおかげで、十分に休養がとれ、暴力による体の不調がひとまず収まり、体力が回復しました。配偶者の金銭的問題で頭を悩ませる必要がなくなったので、経済的にも助かりました。何よりもよかったことは、配偶者の世界観から離れ、自分の頭で考えることができるようになったことです。わたしは配偶者といると常に自尊心を削がれていましたが、離れたおかげで配偶者の世界観のおかしさを改めて感じ、自分の可能性を信じられるようになりました。

離れることが難しいなら

 しかし、状況的にすぐに離れるのが無理な方もいるでしょう。必要なことは、まずはなるべく許さない、怒っている、という意思表示をすることです。だまってがまんしたり、受け入れたり、自分にも非があったからと暴力に妥協してはいけません。意思表示をするあなたに向かって、おそらく相手はばかにする、恐怖を与える、無視する、あげ足をとる、世間や常識という言葉を使う、といったようないろんな手段で、あなたに向き合わないどころか傷つけようとするでしょう。しかし、それはあなたがだめだからでも愚かだからでも正しくないからでも、常識知らずだからでもありません。相手はあなたの自尊心を奪って、抵抗しようとする力を失わせようとしているだけです。相手はあなたの自尊心を奪うためにはなんでもしようとします。そして、そのときに相手の世界観に飲み込まれてはいけません。その際の指標になるのが、[ドメスティックバイオレンスをうけたら その1]で述べた第三者の意見や、[ドメスティックバイオレンスをうけたら その2]で述べたチェックリストです。自分が何をされたのか、どの段階にいるのかを理解できていると、相手の世界観に取り込まれにくくなります。自分の状態を客観視できていると相手のやり口も見えてきます。相手のしたことの記録と自分の心の整理のためにブログや日記をつけることもおすすめです。もし裁判や警察沙汰になった場合に証拠にもなります。ただし、その場合は、相手にアカウントやパスワードを知られないように気をつける必要があります。

※一時的に別れて住むには、シェルターもあります(わたしは利用していません)。

※ドメスティックバイオレンスの加害者は往々にして、交際関係を狭めようとしてきます。信用できる友人・知人や頼れる友人・知人との縁はなるべく切らない方がいいと思います。

※正常な判断ができない状態だったので、暴力をうけた当日〜別居までの対応がベストだったとは思っていません。また、それぞれの状況によって対応は変わってくると思いますので、あくまでもわたしの体験談であるという前提で読んでいただければ幸いです。

※わたしは最初の一週間はウィークリーマンション、別居後はレオパレスでした。どちらも家電をそろえる必要がなく、必要最小限の荷物で生活を再スタートできました。初期費用も自分で用意できる範囲でした。また、お金さえあればすんなり契約可能でした。
 ゲストハウス、シェアハウスなども初期費用はかかりませんが、相手がストーカー化する可能性があってほかの人に迷惑をかけるかもしれない、共同生活者から居場所がもれるかもしれない、ダメージをうけているときに共同生活をするのは自分にとって負担が大きいというようなリスクもあるように感じ、一人ぐらしを選びました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?