気持ちの整理 その1[ドメスティックバイオレンスをうけたら その8]

気持ちや体調の変化に注意深くなる

 モラルハラスメントやドメスティックバイオレンスの怖いところは、少しずつあなたを蝕むところです。長い間かけて、少しずつ自尊心を奪われていき、その傷口に塩を塗り籠むように傷つけられていきます。身体的な被害がなかったり、具体的な症状が出ていなかったり、具体的な診断をもらっていなくても、なんらかのダメージをうけているはずです。くれぐれも体と心の健康に注意してください。
 相手を知るうちに、自分の問題に行き当たったり、自分が精神疾患の可能性があることに気づくかもしれません。その場合は、治療をした方がいいです。決して悲観的にならないようにしてください。また、そういう症状が出るのはあなたが弱いからでも甘えているからでもありません。それはあなたの心ががまんできないと言ってあげている悲鳴です。DVやモラハラをきっかけに気づいたのです。軽くみないで、ちゃんとケアした方がいいです。その方が早く回復します。
 
 体や心に以下の症状が出ていませんか? よく観察してみてください。

[身体的症状]
 暴力をうけたあとに、体に今までと違う症状が出ていませんか? それによって不便を感じていませんか? 不眠、食欲不振、性欲の減退、胃痛、頭痛、不安定、動悸、息切れ、めまい、過呼吸、肌荒れ、アレルギー、月経不順、これまでの持病が悪化した、などの症状があれば注意してください。いつもつかれているとかむやみに眠たい、逆にいつも何かしていないと気が済まないとかいった症状にも気をつけてください。病院に行くほどではない、日常生活に支障が出るほどではないからといって放っておくと、回復が遅くなります。

[心の症状]
 暴力をうけたあとの心の動きは複雑です。被害をうけたときのことを突然思いだす、わけのわからない不安に襲われる、何もできないとか考えられないと無気力になる、怒りっぽくなったりぐちっぽくなったりする、ちょっとしたことで涙もろくなる、いつもつかれている、悲観的になるといった「今までの自分とは違う」と感じることがあれば注意してください。逆に、開放感からお金をつかいすぎたり、性的に奔放になったり、お酒をたくさん飲んではめをはずしたり、徹夜で仕事をしたりということがあっても注意してください。
 すぐに精神疾患につながるということはありませんが、その症状によって対人関係が悪くなったり仕事に支障が出るかもしれません。「今までの自分とは違う」と感じる部分があれば、それは注意した方がいいというシグナルです。何度も言いますが、そういう症状が出るのはあなたが弱いからでも甘えているからでもなく、DVやモラハラをうけた傷による当然の反応です。まずは自分の傷や悲しみや怒りを認めてください

加害者への気持を整理する

 離れてからも加害者への気持は波があって毎日のように変化します。一時の激情にまかせてまちがった選択をしないように気をつけてください。中でも厄介なのは孤独感、怒り、執着です。これらの気持が出てきたときには、以下のことに注意して行動するようにしてください。
 また、周りの人から「もう許したら」とか、「忘れろ」と言われることもあると思います。しかし、それは人に言われてできることではありません。許したりいつまでも執着している自分がだめだと思うかもしれません。でも、そんなことはありません。あなたの怒りや悲しみはあなたのものです。それにとらわれることはあなたの回復を遅らせますが、納得するまで見つめることは決して悪いことではありません。

 [孤独を感じると相手のいい面が見える]
 あなたはだれにも頼れず、たった一人で戦っている気持ちになると思います。孤独に苛まれると、あんな人でもいたら寂しくないのにと、幸せだったときのことを思い出し、今の決断を後悔したりします。せっかく別れられたのにまた同じような人とつきあってしまったり、相手と復縁しようとしたりします。それは一時の感情なので、流されないようにしてください

 [怒りはあなたの身を滅ぼす]
 環境の変化が大きいと、失ったものやなくしたものが目につきます。すると、相手が悪いのに自分がどうしてこんな目に遭わないといけないのだ、と怒りに飲み込まれることがあります。しかし、相手とは縁を切っているのでその怒りのやり場はありません。その怒りを他の人にぶつけて人間関係が悪くなったり、お酒に溺れたり浪費したりするせいで、あなたがピンチに陥ることもあります。やり場のない怒りをよそにぶつけるとあなたに返ってきます。怒っていると感じたら、注意しましょう。

 [執着しても何も戻らない]
 自分の方が不利な条件で相手と別れた場合は、相手に譲った家やお金のことが頭をよぎり、必要以上に失ったものについて執着します。しかし、それを取り返そうと相手と交渉しようとするのは避けた方がいいと思います。そのことでかかるストレスでまたあなたは傷つきます。いらないものをくれてやったくらいの気持ちでいるようにした方がいいです。

対人関係に気をつける

 自分が大変なときこそ、対人関係に気をつけて行動してください。中にはあなたの経験をおもしろ半分に詮索しようとする人、あなたの話を真摯に聞いてくれても、わざとか無意識にあなたを傷つけるようなことを言う人もいます。そういう人たちに振り回されてはいけません。
 また、あなた自身も周りの人が幸せで何の心配もなく見えてねたましく見えたり、こんな大変な経験をしたわたしはほかの人とは違うと特権意識が芽生えたり、辛い目にあったのだから少しくらい人に負担をかけてでも話していいと思ったりだとか、同じような経験をしている人に妙に説教くさいことを言ったりして傷つけたりするかもしれません。でも、そういうことをしているとだんだん人が離れていきます
 また、あなたの話し方や態度によっては、「未練がある」とか「こんな人なら暴力をうけてもしょうがない」とあなたにとって不利な印象をもたれてしまったりします。そういう印象を相手に与えないで、うまく自分の感情をコントロールして、人に相談や経験を話すときに意識しておくといいと思ったことは次の3つです。これは支援団体の人や弁護士、警察に話すときも同じです。

[時間を区切って話す]
 人の辛い経験の話を聞くのは負担です。特に親しい人ならなおさらです。いつまでもだらだらと話していると相手の負担になりますし、あなたもいつまでも止められなかったりします。また、不必要に興奮したり話すことでフラッシュバックが起こったりして、話すことが逆効果になることもあります。もし話したいのなら、30分とか1時間とか時間を区切るようにしましょう。また、何度も同じ人に話さない方がいいです。話す前に相手にも事前に「時間を忘れがちだから、時間が来たら教えてもらえないかな?」などと伝えておくと、相手の負担も少なくなります。

[感情についてではなく事実について話す]
 同じ出来事でも感情について話すのと事実について話すのとでは大きく印象が異なります。また、話し方も変わってきます。なるべく冷静に話したくても、辛かったり、怒りがわいてきて自分でもコントロールできないことがあるでしょう。また、話し方によっては「同情を求めている」「冷静さを欠いていて信用できない」とも取られかねません。そうならないように、なるべく相手に感情的な同意や意見を求めるのではなく、事実について話すようにし、相手に判断を任せましょう。

[経験の差を意識しておく]
 DVやモラハラのしくみが分かっている人には当たり前のことでも、大部分の人はそのような知識や経験がなかったりします。「いつまでも昔のことを言ってもしょうがないから忘れろ」とか「夫婦なんだから両方に悪いところが当たり前」といった無責任に聞こえる言葉をかけられることがあります。それがわざとではなくてもあなたを傷つけることがあります。でもそれを無理解だと怒ったり、相手を啓蒙しようとするのはあまりよくないと思います。
 経験している人としていない人や知識のある人とない人とでは、同じ出来事に対して感じ方が違います。話を聞いてくれたことに感謝を払いつつ、必要以上に傷ついたり無理解に憤ったりしない方がいいと思います。また、踏み込んでくるようなことを言ってきた場合には、冷たいと思われても「申し訳ないけど個人的なことなのでこれ以上言わないでくれ」と距離を取ることも必要です。

わたしの場合

 わたしの場合は、少しでもモラルハラスメントやドメスティックバイオレンスだと感じる場面に出くわすと、動悸が激しくなり、大きなストレスを感じるようになりました。映画や小説等の暴力描写が見られなくなりました。
 最初は周りの人に申し訳ないという気持と周りの人への感謝の気持がありました。しかし、どうしても相手への怒りを解消することができませんでした。相手から仕事についてばかにされていたので、見返してやりたいという気持と仕事での自尊心を傷つけられたという気持ちが大きく、それを原動力にがむしゃらに仕事をしていました。そして、その成果を自慢して悔しがるところを見せつけてやりたいという気持がありました。しかし、実際は縁を切っていますので、そういうことは無理でした。そのせいか、同業者に自慢しようとしたりしてひんしゅくを買ったり、ある程度成果が出てもどこかむなしいという気持をおさえることができませんでした。
 相手に謝ってもらえなかったので怒りの行き場がなくなり、そのせいでちょっとでも相手と似たような反応をする人や自分の身内に対して必要以上に怒っていました。そのせいで信用を失うこともありました。
 また、自分の生育歴をふりかえってみたり、相手の生育歴をふりかえってみたりして、だれのせいかをつきとめようとする犯人探しのような心境におちいりました。しかしそれは何の解決にもなりませんでした。
  

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