死神と月
もうこれが何人目であるかなど、数える気すら失せていた。はじめこそ忘れてはならぬと己を戒め、刈りとった魂を墓石に刻んでいたが、それが百を超える頃にはその行為が何の解決策も見出さないことを私は悟っていた。私が目覚めるときはいつだって、魂を刈りとるその瞬間なのだ。私が生きている限り、彼らの魂は救いを求めてここを訪れる。
私は人形のように倒れている少女の体を抱き上げ、まだその瞬間に抗っていた若かりし頃を思い出した。
「……結局のところ、何も変わっていないじゃないか」
ふと、腕の中で眠る少女の手から何かが落ちた。私は目でそれを追いかけ、静寂にひたされた床を見、そこで月に明かされた小さな影を捉えた瞬間、思わず目を閉じてしまった。
この少女はきっと、穢れを知らぬ愛に忠実であったがゆえに、その影に潜む過ちに気がつかなかったのだろう。いや、むしろ彼女にとってそれは紛れもない正義だった。そして、彼女は盲目的な愛を信じてここを訪れた。
私は目を開いてもう一度、床に落ちた小さな影を見た。それから月明かりを遮り、それを足で踏みにじった。私の心には深い落胆と激しい悔恨が入り混じり、口元には哀情が滲んだ。
ここはとある小さな村の教会、私はそこに住まう死神で、村人の魂と引き換えにこの村の安永を保っている。本来死神というものは、寿命をむかえた魂を刈りとる神だ。路頭に彷徨う魂を天国に送るはずの存在が、なぜ未来ある魂を刈りとらなければならないのか。
足元には無残にひきちぎれた紫の花が落ちていた。教会の庭に咲いているものと同じだった。そう、これは人間が摘む最後の花、愚かな死神に捧げる無力な魂の象徴なのだ。
タツナミソウ、
六月のはじめに咲く死神の鎌。
もしかすると、少女は分かっていたのかもしれない。正義が空虚であることを、影に潜むのは過ちであることを、それから、愛が盲目的であることすらも。
彼らの魂は救いを求めてここを訪れる。彼女の魂もまた、救いを求めていたのだろうか。
私は少女の体をもう一度抱きなおす。それから、不変的な私を皮肉に生き写す月へ、懺悔にも似た祈りを捧げた。