4月の推奨香木は、インドネシア産沈香の寸門陀羅♫
志野流と御家流とで異なる種類の香木が用いられる代表的な例として、寸門陀羅(すもたら、すもんだら)を挙げることが出来ます。
志野流では基本的にジンチョウゲ科アキラリア属の香木すなわち沈香(伽羅も含む)しか用いず、寸門陀羅もインドネシア産の沈香から選ばれます。
(御家流系統では、ジンチョウゲ科ゴニュステュルス属の香木が寸門陀羅に用いられるのが一般的です)
上質のタイ産沈香の輸入が減少の一途を辿るにつれて、本来であればタイ産沈香から選ばれるべき真那賀は伽羅で代用され、真南蛮はインドネシア産沈香が使われることが珍しくなくなっています。
真南蛮にインドネシア産沈香が使われるのは、タイ産に比べると輸入量が多かったことと、どちらも「鹹」を具えることが多く、しかも御家流系統ではインドネシア産沈香を使わないため、一般的に紛らわしく感じないことが挙げられるのではないかと推察しています。
羅国・真那賀だけでなく真南蛮でも木所の特徴を示せる香木が極めて希少になってきていることに、危機感を覚えざるを得ません。
「六国」の概念に副ってその基準を見失わないために必要と思われること、すなわちインドネシア産沈香とタイ産沈香との違いを聞き分けるポイントとなるのは、「鹹に惑わされるのではなく酸を正しく捉えること」だと考えています。
インドネシア、殊にカリマンタンと称されるボルネオ島インドネシア領から産出する上質の沈香は志野流が用いる佐曾羅か寸門陀羅かに分類されますが、そのいずれにも特有の「酸」が多少なりとも具わっていて、木所の特徴を示してくれます。
その実例として、典型的なカリマンタン産沈香の「顔」をしている香木を4月の推奨香木に選びたいと思います。
同じくカリマンタン産でも、佐曾羅に分類される香木がたくさんあります。(例:「仮銘 霞める空」)
そんな中、稀に「酸」に不思議な味わいを具えるものが見つかることがあります。何が不思議かと申しますと…言葉では表しづらいのですが…味というよりは「気」と言うか、鼻腔から脳天に突き抜けるようなスーッとした刺激のような感覚です。
その涼やかな味わいから仮銘を「木の間の月」としましたが、この香木には春めいた暖かさも感じられることから、次のような和歌を探して証歌としました。
またも来む花にくらせるふるさとの木のまの月に風かをるなり
(九條良経)(秋篠月清集)
沈香の寸門陀羅に特有の「酸」を体現する好例として、味わって戴ければ幸いに存じます。