初春の推奨香木は、気品あふれる伽羅♪

香道に用いる香木を選定し分類なさるのは、流派の御家元・御宗家の大切なお仕事です。
分類の基準は代々継承される流派の規範に定められていて、その重要な根拠となる「手鑑香」の存在は、筆舌に尽くし難い香木の香気の特徴を門弟たちに説明する際に、実例を示すという点で、明瞭な手段になり得ます。

分類の結果はご承知の通り「六国」という概念で表され、具体的には伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・佐曾羅・寸門陀羅の六種類になるのですが、その概念はとても抽象的で、合理的に説明することは困難を極めるのです。

六国の分類にどのような香木を当てはめて用いるかは御家元・御宗家がお決めになることですが、志野流香道の場合、選ばれるのは基本的には全て沈水香木、略して沈香(原木はジンチョウゲ科アキラリア属の植物)ですが、中でも伽羅は別格として扱われることが通常と言えます。
すなわち「最上質の沈香が伽羅である」という認識が、古来、通念とされてきたように思えます。

一方、香雅堂では「どんなに最上質でも沈香は沈香で、どんなに低品質でも伽羅は伽羅である」と様々な機会に言及してきました。
そして最近では「沈香と伽羅とでは、同じジンチョウゲ科アキラリア属でも種が違う」と考えるに至っています。

さて、本題に入ります。
「ピンからキリまで伽羅は伽羅」なのですが、多くの伽羅はいくつかのタイプに分けることができます。(詳しくは下記別稿をご参照下さい)

そしてそれぞれのタイプごとに、香気の特徴に微妙な違いを感じることができます。
例えば甘・苦が強いもの、辛・酸・鹹が優勢で甘が弱いものなど…
そんな中、初春に相応しい香木として選んだのは、苦・辛・酸・鹹をバランス良く具え、目立たないのですが甘も感じられて…強くは立たないのですがたおやかで気品あふれる伽羅です。

輸入年代は不明ですが相当に年数を経ているようで、内部は水分の浸食を受けて朽ちたように見受けられます

そんな印象から、次の和歌を玉葉和歌集に見つけて「仮銘 つらぬる袖」としました。
むらさきにつらぬる袖やうつるらん雲のうへまで匂ふ白菊
                          (西園寺実氏)
甘・苦が目立つような、いわゆる「大向こう受けする」タイプではありませんが、新しい年を迎えた慶びをしみじみと味わって戴くよすがとなりますよう、推奨いたします。

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