令和2年 司法試験論文刑法 答案作成時の思考過程
こんばんは、井上絵理子です。刑法の答案を書いたときの問題文の読み方、論理の考え方をお話しようと思います。なにゆえ答案がああなったのか、どこでどうパニックになり、どう戦略的に答案を作成しようとおもったのか、一つ一つみていこうと思います。
設問1から設問3まであるのは令和元年と同様。配点割合が書いていないため、どの設問にどの程度点数が割り振られているのかは不明。事例が1と2のみであること、事例1は2段落分で、さほど長くないことから、事例2がヤバい(=量が多いor難しい)と予測。
設問から読む。2時間で書ききらないといけないので、答案構成は可能であれば20分で済ませたい。刑法には苦手意識があり、これでいいのか?と悩みこむこともあるので、30分までなら許可する、と自分に言い聞かせる。案の定、設問2と設問3がよくわからんことになり、とりあえず合格最低ラインを狙いに行く戦略に切り替えた。実際の答案構成時間は28分。
<設問1>
以下の①及び②の双方に言及した上で、事例1における甲のBに対する罪責について論じなさい、と設問にある。このタイプの問題は、結論を書き落とす可能性が非常に高いため、答案の最初に結論を書いてしまうことを心に誓う。平成24年行政法第2問も同様の出題(適法とする法律論と違法にする法律論を書くというもの)だったのだが、案の定最終的な結論を書き忘れた気がする。択一まで全部終わって、友人たちの悲哀の声を受け止めている時に気づいた。私も発狂する羽目になった。この苦い経験を踏まえ、このタイプの、すなわち両論併記後結論を要求するものについては、先に結論を書いておくことにしたのである。
①の考え方と②の考え方はそれぞれ被害額に関するものなので、財産上の損害がどこまで認められるかの違いかなあ、とぼんやり考える。個別財産に対する罪なのだから、全額になるだろうし、たぶん多い方なんじゃないかなぁと当たりをつける。本件債権に係る利息云々が設問文に書かれているので、本件債権を行使するときにやりすぎた系かのう、とあたりをつける。
段落1.犯罪をした者は甲、乙、丙、と表示され、その他の一般人はA、B、Cと表示されることが多い。一文目の登場人物はAとBなので、彼らは犯罪をしていないのだろう。ちなみに、女性の場合はA女と書かれることが多い。また、性別が犯罪の成否にかかわらない(違法性阻却事由の判断にからまない場合も含む)場合にはそもそも性別表示がされない。本件債権の弁済委が到来、Bは返済の督促に応じないことが書かれている。返そうよ、Bさんと思わないこともないが、これは最終的に裁判して強制執行せなあかんなあとも思う。知人の甲に債権回収を依頼したとあり、ここで甲(その表示から犯人と考えられる)が登場する債権回収依頼とあるので、取り立てのための債権譲渡ではなく、代理かなあ、と考える。また、本件債権額が500万円であることと設問の①②の考え方からすると、「甲さんとりすぎちゃったのかあ」と思う。
2文目では、自分の借金を返すために、水増し請求をしようと心に誓っており、取り返しのつかない人だと思った。この時点ではまだ、財産犯のうち何罪が成立するかはわからない。ただ、本件債権が弁済されたことになる=被害額100万円/なにがしかで奪われたもの全体に財産犯が成立する=被害額600万円、だろうことは予測がついた。民法と刑法の違いをどう処理するかが問われている気がしたので、民法上の処理を刑法なのに書こうと決意する。結果「違ってていいよー」で終わらせることも心に決める。
2段落目。「自身が暴力団組員ではないのにそうであるかのように装い」と書いてあるので、脅した!これ恐喝だ!と反応する。恐喝行為をするときの脅し文句に虚偽があったとしても、それも相手方を畏怖させる一材料となり、その畏怖の結果相手方が財物を交付した場合は恐喝罪のみが成立するはずだ!と自信満々である。ただ、詐欺と恐喝も一応論点といえば論点(欺罔行為あるといえるか?とかなのだろうか)らしいという知識もあり、受験生的には触れないのも怖い気もする。ただ、もう頭は恐喝でいっぱいで、怖くて書くにしても短い目に(3行程度)しようと思う。
「600万円と聞いている」。水増ししたな、甲さん。「金を返さないのであれば、うちの組の若い者をあんたの家に行かせることになる。」・・・お家壊す?殴る蹴るの暴行後海に捨てられる?え、どうしよう怖い。これはもう恐喝行為といっていいでしょう!ただ、恐喝の定義がすぐにでてこなくて焦る。とりあえず、強盗レベルじゃないということはわかっていたので、「反抗抑圧に至らない程度の暴行脅迫」としておいた。また、財産犯では「財物奪取にむけられた」が大事なので(修習のときの起案で一回書き落とした。なにも突っ込まれなかったけど、恥ずかしかったのでよく覚えている。)、これも書いておく。
Bは甲が本件債権を回収を依頼されていることを知っている。600万円じゃなかったとも思っているが、とにかく怖くて払っている。なので、詐欺はやはり成立せず、恐喝のみが成立する、と考えた。
書くことはここまでの検討で出そろっているため、答案構成用紙に別途何かを書くことはせず、問題文にちょこちょこ書くことにした。検討内容からして1頁半程度で終わらせるのが妥当だと考えた。論点は一つ(恐喝と詐欺入れたら二つだけど、これはサブ)、それ以外に罪名成立に問題となるところはないので、とりあえず構成要件にあてはめ、恐喝を成立させる(ナンバリング1)。そして、被害額について検討し(ここで民法に基づく処理をする)、600万円だと言い切る(ナンバリング2)。結論をもう一度明示して終わり(ナンバリング3)。
<設問2>
設問2及び設問3は事例2についての問題であるため、さきに問題文を読んだ。設問文から読めばよかったような気もする。
3段落目、甲名義の口座から600万円をおろして甲の債権者Cに弁済をする。・・・横領やんか!被害者はA、単純横領、成立額は500万円・・・。成立自体に問題はないため、構成要件に淡々とあてはめる。ただ、横領は委託信任関係とか、領得行為説とか、きちんと立場を明示して書かないといけないから行数かかるだろうなあ、とも思う。
また、甲はAに嘘をついて履行期を伸ばしてもらっている。2項詐欺キタコレ!と思い、愕然とする。リンゴ箱判例やら請負債権の支払いを前倒ししたあれとかが頭を駆け巡り、「どうしよう、成立するのかせんのかわからん!」とプチパニックになる。とりあえず一旦棚に上げ、続きを読む
4段落目、2項強盗を決意する甲。相続人がおらず、法律上も債務を免れるのは試験委員からのやさしさであろう。これで相続人がいるとか言われたらもう、相続人が容易に請求できない的なことを書いて無理やりゴールせざるを得なかった。ただでさえ2項詐欺パニックなのである。これ以上私をいじめないでくれ。
5段落目。睡眠薬を飲ませたうえで、薬剤を混ぜて有毒ガスを発生させるという。混ぜるな危険て書いてあるやろ!と思いつつも、クロロホルム判例やらなんやらが頭によぎる。眠らせた時点でAさんの命は甲にがっつり握られているといえるから、もし実行されたら睡眠薬飲ませた時点で実行の着手が認められるのは確定かなあ、と思う。
6段落目。甲は案の定Aを眠らせた。が、いきなり怖くなってやめている。え、チキン?別に外部的事情もないから、ここでやめるのはただのチキン。チキンだろうがなんだろうがやめているから、これは中止犯やなあ。Aが死ななければ、2項強盗も殺人もどっちも因果の流れが止まるし。
7段落目。え、この状況利用して物盗り?!チキンちゃうんかい!窃盗にするか、強盗にするか迷う。自分で作り出した反抗抑圧(寝てるだけ)状況利用しているから、強盗でいっか、と割り切る。正解?知らん!正解より最後までたどりつくのが大事!と自分を鼓舞した。すでにパニック状態である。
8段落目、睡眠薬によりA死亡。あれれ、亡くなってしまわはった。A自身も認識していなかった心臓疾患、一般人も甲もわからない。あー因果関係かあ。この文を読んだ時点では、それでも危険の現実化で因果関係を認めることができると思っていたのである。ただ、論点となりうるのはここだろうと。このことを、設問2を解き、設問3を書いている最中に混乱を来たした頭ではきちんと反映できず、えらいことになっている。答案構成に40分かけてでも全罪名につき答案構成しておくべきであったと強く後悔する。
9段落目。睡眠薬の混入量は特別な心臓疾患がない限り生命に対する危険がまったくないものであった。・・・。不能犯?たしかに甲も自分でもらってきたおくすりまぜているから、これでAがしぬとは思わないか・・・。クロロホルムっぽいなあ。うわー死ぬことはないと思っていたって、あーあ。クロロホルムのときはそれで死ぬこともある、だったけど、こっちは死の危険がないものだった、え、どうしようこれ。最後まで計画実行してくれていて、実際は睡眠薬で死んだよ、だったら、一連の実行行為といえるけど、最後まで実行していないから、睡眠薬飲ませ行為→A死亡が客観面になるわけだし、え、形式的には実行の着手が認められるけど実際は不能犯みたいなことではないのか?殺人の実行行為とはいえないよなあ・・・。
設問2は、3、4、7段落の事実をなかったものとして甲に殺人既遂罪が成立しないとの結論の根拠となる具体的事実にはどのようなものがあるか、と聞いている。ここでクロロホルム判例を大展開するまいと心に決める。あの判例は、「殺す計画で結果殺して、その因果関係が違ったからって逃がさないぜ」というものだと理解している。そのため、あの判例と同じ流れになりそうなところは、反論としてうまく機能しない。だとすると、クロロホルム判例とは事案として違うところをうまく使うしかない、と思った。
睡眠薬に生命に対する危険がなかったこと=不能犯、睡眠薬によって死ぬことについて因果関係が認められるか疑問=因果関係、で、既遂にしない論理が尽きてしまう。もう、あとは恐怖してやめたとかかれている中止犯のところを使うしかないと思い、中止未遂に走る。実行の着手を認めないのは無理筋、計画通りに行っているから、故意がないと(理論上はできるけど)難しい気もしてしまい・・・。なぜか、ここで、憲法で、判例を知っている弁護士として論ぜよというのを思い出してしまい、混乱をきたす。まったく自信がない。ただ、具体的な事実をあげよ、とあるから、具体的な事実を最初にあげて、お茶を濁しまくろうと決意する。
設問3は、甲に成立する罪名を問うている。横領、2項詐欺、2項強盗・・・?で固まる。設問2を書いている最中に殺人既遂罪否定へと頭が流れたため、なぜか2項強盗殺人を成立させてはいけない気分になる。おちついて考えれば、因果関係を認めるはずなのに、なぜか因果関係を認めない。ならば、Aの死→財産上の利益を得るという因果関係も認められない気もするが、そこにその時は気づかない。むしろ私が死。
で、腕時計をパクった行為につき、無難に行くなら窃盗の方が良い(戦略上攻める必要がない)のに、1項強盗を認めるという・・・。
横領、2項詐欺、2項強盗は全部500万円の本件債権に関するものなので、一番重い2項強盗に吸収、別途成立する1項強盗(笑)とは併合、ということにした。
<全体的な反省点、感想>
刑法でかつ罪名が多数成立する場合には必ず答案構成に成立不成立を書く。論点の結論も書く、答案構成と違うことを書かない、というのがとても、とても、とても大切だと感じた。書いている最中に、「あれ、これ、成立する・・・?」とかならずとち狂うタイミングがくるので、より冷静な答案構成段階に従う方がよいであろう。また、仮に迷ったとしても、答案構成時となぜ内容を変更するのか、自己にきちんと問いかけた方がよい。たいてい、何かに引きずられて勘違いをしていると思われる。問いかけてなお説得的な答えが返ってきたら、その理由も含めて答案化すれば、試験委員に理屈は伝わるため、致命傷とはなりにくくなると思われる。
とりあえず、刑法頑張って勉強しよう・・・。