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令和2年司法試験論文答案例 民事訴訟法

こんにちは、井上絵理子です。何とか書きあがりました、民事系3つ一気に一日でやりたかったけど無理だった・・・地獄すぎる。民事訴訟法は、まだ解けそうな設問と、これでいいのかちっともわかんない設問の2つが混在していてメンタル破壊しに来る感じでしたね。書き終わったが、これでいいのかやはり一ミリもわからぬ。2時間で、六法以外何も見ずに書いたので、正直あれでよいのかわからない話もたくさん混じっております。出題趣旨発表前なので、これで大丈夫かはまったくわかりません。

第1 設問1
1 課題1について
本件敷金返還請求権を訴訟物とする、将来給付の訴えの適法性が認められるか。将来給付の訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り、提起することができる(135条)。そして、現在において敷金返還請求権は発生しておらず、建物の明渡しをしてはじめて発生する権利ということから、そもそも本件敷金返還請求権に請求適格が認められるかが問題となる。
将来給付の訴えに対して請求認容判決が出された場合、その請求権にかかる期限が到来し、または条件が成就すれば、債権者は執行文の付与(民事執行法27条1項)を受けて強制執行をすることができる。これに対して債務者は、判決の時点では発生するとされていた債権が発生していない場合には請求異議の訴えを提起し(民事執行法35条1項前段)、口頭弁論終結後に新たに発生した事情を主張しなければならなくなる。このように、将来発生するかどうかが不確定な債権について将来給付の訴えを許し、判決をしてしまうと、実際には当該債権が発生しなかった場合に被告に請求異議の訴えを起こさせ、再び訴訟をするという負担を負わせることになる。そこで、将来給付の訴えを提起することができる債権といえるため(請求適格)には、当該訴えの訴訟物たる債権の基礎となる法律関係が口頭弁論終結時において存在し、その債権が発生する高度の蓋然性があるといえる場合であることが必要である。
敷金返還請求権は賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を賃貸人が受けた時に発生する(民法622条の2 1項1号)。そして、発生する敷金返還請求権の範囲は、賃借人から受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額である。本件においても、敷金と解することができそうな金銭がAからXに支払われている。これを敷金と認定することができれば、いつか必ず終了し、建物が明け渡されることになるのが賃貸借契約であるから、いつかは必ず敷金返還請求権が発生するといえ、債権発生の基礎となる法律関係があるといえる。
また、本件では、8月中旬の時点では、賃料の滞納もなく、本件建物を修繕する必要もない旨Xが発言している。そのため、敷金から差し引かれる賃貸借契約上の債務は8月中旬時点ではなく、敷金として差し入れたと考えられる120万円満額の返還請求権が生じるとも思える。
しかし、賃貸借契約上の債務である賃借人の原状回復債務(621条本文)は、実際に建物を明渡してみないと発生するかどうかを確定することはできない。その債務の額によっては、残額が存在せず、敷金返還請求権がそもそも発生しない可能性すらある。
したがって、敷金返還請求権が発生する高度の蓋然性があるとはいえない。
以上より、本件において将来給付の訴えは認められない。
2 課題2について
 本件賃貸借契約に付随して授受された金銭が敷金であることを裁判所に確認してもらう必要がある。そのため、本件では120万円を超えない範囲でY2はXに対して敷金返還請求権を有することの確認の訴えをすることが考えられる。
 確認の訴えに対して出された判決は既判力しか有せず、執行力や形成力がないため、判決をだしても紛争の抜本的解決につながらない可能性がある。紛争解決を目的とする民事訴訟において、判決をしても紛争解決にならないのであれば、無駄な訴訟となり、時間・裁判所・費用をかけてやる必要はないといえる。そこで、確認の訴えが認められるためには、当該確認の訴えの訴訟物の存否について既判力をもって確定することが紛争の抜本的解決に有効かつ適切といえることが必要と考える。 
 本件で、賃貸人Xは、本件契約締結時にAから差し入れられた120万円は礼金、すなわち本件建物を賃貸することに対する謝礼としての贈与であると考えている。そのため、そもそも返還義務が生じず、また賃貸借契約上の債務が発生した場合には別途請求することができると考えている。
 そうすると、本件120万円が敷金とされるか礼金とされるかで本件地貸借契約に基づき発生する債務の履行を請求する訴訟が提起されるかどうかが分かれるといえる。敷金返還請求権であることを既判力をもって確定しておけば、先に敷金をもって充当しておけばよく、後訴において別の賃貸借契約上の債務について争われる可能性は減る。仮に別の債務が複数あり、それらが別の裁判所に係属した場合、ある裁判所では120万円が敷金とされ、別の裁判所では礼金とされ、債務に充当されるかどうか統一的に解されず、紛争が拡大する可能性がある。
 したがって、敷金返還請求権の存否について既判力をもって確定することが紛争の抜本的解決に有効かつ適切といえ、敷金返還請求権が存在することについて確認の訴えをすることについて確認の利益が認められる。
第2 設問2について
1 民事訴訟における心証形成の資料
 裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する(247条)。裁判所は、証拠によって事実を認定するためには当事者が申し出た証拠によらなければならない(弁論主義第3テーゼ)。また、裁判所において顕著な事実は、証明することを要しないとされている(179条)。したがって、裁判所の心証形成の資料は、当事者が申し出た証拠の証拠調べの結果、顕著な事実、口頭弁論の全趣旨ということになる。
2 和解期日におけるY2の発言が上記3つにあたるか。
 まず、Y2の発言を証拠として取り調べるためには当事者尋問(207条)の手続きによることが必要なところ、そのような申し出はされていない。
 また、Y2の発言は顕著な事実にも当たらない。
 では、口頭弁論の全趣旨としてしん酌できるか。口頭弁論の全趣旨とは口頭弁論にあらわれた当事者の主張および行動等から証拠調べの結果を除いたものである。ここで、和解期日は口頭弁論ではない。口頭弁論は公開・対審・直接・口頭で行われるものである。これに対し和解期日は非公開、交互審尋で行われている。また、和解の試みは訴訟がいかなる程度にあっても行うことができ(89条)、口頭弁論終結後も弁論の再開をすることなく開くことができる。口頭弁論が終結しているのに口頭弁論が開けるはずはないため、和解期日は口頭弁論ではないといえる。
 したがって、口頭弁論ではない和解期日においてなされたY2の発言を、口頭弁論の全趣旨としてしん酌することはできない。
3 和解手続における当事者発言を証拠資料とすることの問題点
 和解は当事者が互譲して紛争解決を図る手段である。そのため、和解においては本来の主張を下げ、相手方の主張を一部認めるような発言をすることがあり得る。これを証拠資料とされてしまうと、和解が流れ、判決手続になった場合には、和解手続においてした発言に基づき判決がされることになるから、そもそも相手方の主張を一部認める、自分の主張を一度下げるなどの行為は口頭弁論の全趣旨として、裁判官に不利にしん酌されると双方代理人は考えるであろう。そうすると、そもそも和解手続においても判決手続と同様、争いの姿勢を崩すことができず、互譲することができなくなる。
第3 設問3について
1 課題1について
(1) 本件訴訟は共同訴訟のどの類型に該当するか。
 必要的共同訴訟に該当すれば、訴訟共同・合一確定の必要性から、共同訴訟人全員が訴訟に関与しなければならず、また、40条に基づき共同訴訟人に不利な訴訟行為の効果は生じない。このように強力な効果が認められるのは、訴訟物について、その訴訟物に関する全員が関与して訴訟をしないと実体法上考えられるからである。そして、実体法上全員が訴訟をするという管理処分行為をしなければならない場合であれば、必要的共同訴訟になると考える。
 本件の訴訟物は賃貸借契約に基づく建物明渡し債務である。この債務は給付が性質上不可分であるから、不可分債務である(民法430条)。不可分債務の履行は債務者のうちの一人が単独で行うことができる。したがって、全員で管理処分行為を行わなければならない場合に当たらないため、本件共同訴訟は必要的共同訴訟ではなく、通常共同訴訟となる。
(2) Y2単独に対してした訴えの取下げの有効性
 通常共同訴訟においては共同訴訟人独立の原則が適用され、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさない(39条)。したがって、XがY2に対してした訴えの取下げは有効であり、XはY2に対する訴えのみを取り下げることができる。
2 課題2について
 第2回口頭弁論期日においてY2が提出した本件日誌の取調べの結果を事実認定に用いてよいか。
(1) 共同訴訟における取調べの効果
 共同訴訟において、共同訴訟人の一人が証拠申出をしてされた証拠調べの結果は、証拠共通の原則に基づき、他の共同訴訟人の援用なくして、他の共同訴訟人の判決の基礎とすることができる。共同訴訟人の一人が提出した証拠の取調べは他の共同訴訟人がいる前で行われており、異議があればその場ですることができる。そのため、証拠共通を認めても他の共同訴訟人にとって不利益にはならない。また、事実認定時に一人についてはある証拠調べに基づいた結果を心証形成の資料とできるが、他方についてはできないとすると、裁判官に不自然な心証形成を強いることになる。そのため、援用なくして証拠調べの結果を事実認定の基礎としうる証拠共通の原則が認められている。
(2) 訴えの取下げによる影響
 訴えの取下げにより、訴訟は初めから係属していなかったものとみなされる(262条1項)。そのため、Y2のした証拠申出も当初からなかったものとなる。
 もっとも、訴訟係属しなかったとみなされるものの、実際に共同訴訟として訴訟追行がおこなわれ、裁判所も証拠調べをおこない、心証形成をしている。そのため、訴えが取り下げられたため、これをなかったものとして、Y1による証拠資料の援用がない限り心証形成の資料としえないのは前述したように裁判官に不自然な心証形成を強いることになる。
 したがって、いったんされた証拠調べの結果が証拠共通の原則によってY1の判決の基礎とされるようになった以上、Y2が訴えの取下げをしたとしても影響はおよばないと考える。
(3) したがって、裁判所はY1の援用なくしてY2が提出した本件日誌の取調べの結果を事実認定に用いてよい。               以上


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