司法試験 平成25年 民事訴訟法 答案例
<新司法試験 平成25年 民事訴訟法>
第1 設問1について
1 昭和47年判決について
数多くの不動産を含む全財産を共同相続人のうちの一人に遺贈する旨の遺言が無効であることの確認の訴えについて、確認の利益を認めたものである。判例が確認の利益を認めた理由は、本件における遺言は紛争の直接的な対象である基本的法律行為といえ、その無効を確認することが端的に確認訴訟の持つ紛争解決機能をはたすこととなる点にある。
2 昭和47年判決の事案と、本件事案の違いについて
前述のように、昭和47年判決の事案は遺言により多くの財産の帰属が変動するものであった。そして、遺言が無効であれば、当該財産は遺産分割の対象となり、多くの利害関係人が発生するのである。
他方本件事案は、相続人でない第三者に遺贈する旨の遺言である。また、遺言の対象となっている財産は土地甲1のみである。
すなわち、事案の違いは遺言対象財産が多数か一つかということ、および、遺言に係る利害関係人が多数に上るか特定当事者に限られるかという点にある。
3 本件遺言無効確認の訴えの利益が認められないとの立論
上記のように遺言対象財産が多数にのぼり、利害関係人が多数に上る場合には、一つ一つの財産について遺産にあたり、共同相続人全員の共有確認をしていくことが必要となる。
そうすると、ある財産については遺言が無効として共有となることが確認され、ある財産については遺言が有効として共有とはならないと確認されるなど、法律関係が錯綜する可能性がある。このように考えると、共同相続人が多数にのぼり、遺言によって多数の財産が変動する場合には、その変動原因となった遺言が基本的法律行為といえる。そして、その遺言の無効確認をした方が、現在の紛争たる、当該多数の財産が誰の所有かということについてもれなく統一的に確認することができる。すなわち、確認訴訟のもつ紛争の抜本的解決機能が十全となる。したがって、確認の利益が認められる。
他方、本件で問題となっている遺言は、第三者B一人に対し、一筆の土地甲1を遺贈する旨の遺言である。Bと唯一の相続人Eという特定の当事者間の争いであり、遺言によって変動する財産は一つである。そうだとすれば、上記のような財産の帰属が訴訟によってかわることもない。また、BとEの間の紛争は甲1の所有権がどちらにあるかということである。そうすると、遺言が無効であることを確認しても、その既判力は遺言が無効であることにしか及ばない。そうだとすれば、所有権について裁判所が確定的に判断を下したわけではなく、いまだ紛争が抜本的に解決されたとはいえない。
したがって、判例の事案とは違い、確認訴訟のもつ紛争の抜本的解決機能が十全となるとはいえず、確認の利益は認められない。
第2 設問2について
1 訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり、遺言執行者Dには被告適格がないとの立論
判例が遺言執行者に当事者適格を認めた理由は、遺言執行者が当該財産の管理処分権を有しているため、この者に対して判決をだすことが、紛争の有効かつ適切な解決に資する点にある。
遺言執行者は「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」(民法1012条)とされており、相続人は遺言執行者の行為を妨げることができないとされている(民法1013条)。そして、遺言の執行とは財産を引渡したり登記を備えるなど、相続財産を管理し、処分をすることを指す。そうだとすれば、遺言執行者は遺言の執行に必要な限りにおいて、相続財産の管理処分権を有することとなる。そして、この管理処分権が認められるのは遺言の執行に「必要」であるからであるから、遺言の執行が終了した場合には、遺言執行者は当該管理処分権を失うこととなる。
そして、本件における遺言の執行は終了しているといえる。
本件遺言はCに対し土地甲2を遺贈する旨の遺言である。遺言の効力は遺言者、すなわちAの死亡の時に発生する(985条)。そして、遺贈する旨の遺言があった場合には、所有権は遺言の効力が発生したときに移転する。そうすると、本件土地甲2の所有権は、Aの死亡時にCに移転していることになる。すなわち、遺言に記されたCに土地甲2の所有権を移転するということが実現され、遺言の執行が終了しているとも思える。
しかし、所有権の取得を第3者に対抗できるようにするためには、登記を備えることが必要である(177条)。そして、登記の移転をするためには、遺言執行者と受遺者がともに申請をすることが必要である。そうだとすれば、登記が受遺者に移転すれば、遺言の執行は終了することとなる。そして、遺言執行者のがいつ職務が終了したかわからないと、法的安定性に資さないことから、客観的に遺言執行に必要な行為がすべて終了すれば、遺言執行者の職務は確定的に終了することになる。
本件では、受遺者Cは土地甲2の登記を備えている。したがって、遺言執行者Dの職務が終了しているといえる。
よって、遺言執行者は土地甲2の管理処分権を有せず、受遺者Cが所有権者として、土地甲2の管理処分権を有している。
2 以上より、遺言執行者Dは管理処分権を有せず、この者に対して判決をだすことが、紛争の有効かつ適切な解決に資するとはいえないため、Dは被告適格を有しない。
第3 設問3
1 小問(1)について
相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき者が主張すべき請求原因は、①被相続人が死亡時にその特定財産を有していること(896条本文、882条)②被相続人であること(887条1項)③被相続人の死亡(882条)の3つである。
これを本問の事実関係にそくして考えると、①F死亡時すなわち、平成15年4月1日において、土地乙がFの所有にかかること②GはFの子であること③F平成15年4月1日死亡の3つを適示すれば足りる。
なお、HもFの子であることから、その事実も適示しなければいけないとも思えるが、自らが被相続人であることさえ言えば、自らが相続することは基礎づけられるのであるから、GがFのこということさえ適示すれば足りる。
2 小問(2)について
前訴において、当事者の主張を前提とすると、裁判所は、適切に釈明権を行使したならば、上記3つの請求原因事実を判決の基礎とすることができるか。
(1) まず、①の事実を判決の基礎とすることができるか。
判決の基礎とするためには、弁論主義の第1テーゼより、当事者が口頭弁論において主要事実を主張することが必要である。
前訴において、Jが土地乙の所有権を有していることはG・Hとも共通して主張している。所有権の存在を証明するためには、原始取得されたときから、転々流通していく、その過程を一つ一つ証明していく必要がある。もっとも、このような証明を常に課していたのでは、所有権者の負担が過度にすぎる。そこで、両者が一致して認めた所有権者から、所有権の来歴経過をたどっていくことで、証明の負担を軽減している。
すなわち、本件においては、Jもと所有が主張されていることになる。
そして、HはJからFが土地乙を買い受けたことを主張している。ここで、Gが主張すべき請求原因事実を相手方Hが主張しているため、「主張」がなく、判決の基礎としえないとも思える。しかし、弁論主義は裁判所と当事者との間の役割分担を規定したものであるから、当事者のどちらかが主張していれば、判決の基礎とすることができる。
本件においては、HによってJF売買が主張されているため、JF売買契約時においFが土地乙を所有していたことを判決の基礎とすることができる。死亡時主張はないものの、所有権は他に移転しない限り、所有権者の下にとどまっているものであるから、F所有が主張されており、後述する②③の事実が主張されれば、釈明権を行使し、死亡時F所有も主張されることとなると思われる。
したがって、①の事実を判決の基礎とすることができる。
(2) ②の事実を判決の基礎とすることができるか。
前訴において、Gは「父F」と発言している。そのため、②の主張があったとみることもできる。もっとも、相続を主張するつもりで、「父F」ということを言ったわけではない。そのため、裁判所が相続の請求原因事実として、GがFの子であることを主張するかについて釈明権を行使していれば、②の事実を判決の基礎とすることができる。
(3) ③の事実を判決の基礎とすることができるか
前訴において、Gは「生前」と発言している。②の時と同様、相続の請求原因事実を主張するつもりで発言したわけではないため、前述と同様、釈明権を行使すれば、③の事実を判決の基礎とすることができる。
(4) 以上より①~③の事実を前訴判決の基礎とすることができる。
第4 設問4について
信義則(民事訴訟法2条)を理由として、既判力の作用を訴訟物より狭い範囲にとどめることができるか。
平成10年判決によれば、後訴の提起が前訴の不当な蒸し返しにあたり、紛争解決についての被告の合理的期待に反し、被告に応訴の負担を強いるものであるため、特段の事情がない限り、信義則によって訴え提起が許されないとするものである。これは、信義則によって、既判力(114条1項)を債権全部の存在に拡張したものである。
そこで、平成10年判決を裏返し、後訴の提起が前訴の不当な蒸し返しにあたらず、紛争解決についての被告の合理的期待が有せず、被告に応訴の負担を強いるといえない場合には、信義則によって既判力が縮小すると考える。
これを本件についてあてはめると、前訴はGが土地乙につき所有権があることの確認訴訟、およびGのHに対する土地乙所有権に基づく土地引渡請求訴訟・HのGに対する土地乙所有権にもとづく土地引渡請求訴訟の3つである。訴訟物は土地乙所有権及び、土地明渡請求の存否である。そして、前訴において、所有権の存在を基礎づけるために主張されていたのは、GJ売買・GF売買・HF贈与のみである。
所有権は、通常の請求権と違い、発生・取得原因に様々な法律行為が考えられる。それは、所有権が当事者間の合意で発生するものではなく、所有権を誰かから譲り受ける承継取得を基本としていることによる。そうすると、所有権の存在を基礎づけるためには、前の所有者が所有権を有していたことに争いがなければ、承継取得をした何がしかの法律行為が有効であることを主張立証する必要があることになる。そして、通常の請求権と違い、その法律行為は多数あり、時効などの法定取得原因すらあるのであるから、そのすべてについて常に主張しなければいけないとするのは困難である。そこで、通常は裁判所が釈明権(民事訴訟法149条)を行使し、自らが認定しようとする法的観点を訴訟の場に提示し、もって手続保障の機会を与えることが重要となるのである。
それにもかかわらず、裁判所が法的観点を指摘せず、実質的に手続保障の機会が与えられていないといえる場合がある。そして、本問において裁判所は相続が認定できるにも関わらず、その旨当事者に伝えず、争わせることすら行っていない。そうすると、前訴において手続保障の機会が付与されていない、相続の部分については、実質的に前訴の蒸し返しにはあたらないといえる。
また、被告Hは前訴終了後においてもGに対し、自らが土地乙を相続ではなく、贈与によって取得したと一貫して主張している。贈与の主張をして裁判所にそれが受け入れられなかったにもかかわらず、贈与の主張をしていることからすると、被告は当該土地乙をめぐる紛争が解決したことについて、合理的期待を有していたとはいえない。
さらに、被告Hは自らGに対し単独所有権の主張を続けているのである。このような主張をすれば、前訴の時のようにこれにGが応戦し、訴訟の場に引きずりだされる可能性はある。そのような行為をしたのであるから、自らGによる訴訟提起を誘因したといえ、被告の応訴の負担に配慮すべき必要性は低く、応訴の負担を強いるとはいえない。
したがって、後訴の提起が前訴の不当な蒸し返しにあたらず、紛争解決についての被告の合理的期待が有せず、被告に応訴の負担を強いるといえない場合にあたり、信義則によって既判力が縮小するとの反論をすることが考えられる。