重問書いてみた 民法第33問設問2
ちょうど苦手な事案がばっちり問題になっていたので、書いてみようと思います!自分が復習したいときに、必要なポイントをできるだけ網羅した答案が書きたいな、と思ったので、丁寧に、枚数無視して答案を作成しています。もちろん自分の答案が唯一無二絶対正しいなんて思ってない(枚数無視している時点で、現場では書けない答案ですしね!)ので、参考にされる際はたたき台の一つとしてご利用くださいませ!
1 Dは、自己が所有している乙土地について、Fが登記を有していることから、Fに対し、所有権(民法(以下法文名省略)206条)に基づく妨害排除請求としての、乙土地所有権移転登記請求をすることが考えられる。では、この請求は認められるか。
(1) この請求が認められるためには、①D乙土地所有、②乙土地についてF名義登記があることが必要となる。
①Dは、乙土地の所有者であるEと乙土地売買契約(555条)を締結しており、意思表示のみで所有権が移転することから(176条)、Dは乙土地所有権を取得する。また、②乙土地についてF名義登記がある。以上より、Dの請求は認められるとも思える。
(2) これに対し、Fは、DとFが対抗関係にたち、Fが乙土地登記を備えたため、Dの乙土地所有は認められないと反論することが考えられる。
乙土地の第一譲受人であるDが登記を備える前に、債務者Eとの間で、Eが負担した給付である金銭債務の弁済に代えて、乙土地を債権者Fに譲渡し、これによって債務を消滅させる旨の代物弁済の契約をした。代物弁済契約(482条)が成立した時に、代物弁済契約の他の給付の目的である権利が移転することから、本問においても、代物弁済契約時に、他の給付の目的である乙土地所有権がFに移転することになる。
代物弁済契約時において第一譲受人は未だ乙土地の登記を備えていないため、DとFは乙土地所有権について相争う関係、すなわち対抗関係にたつ。この場合、第一譲受人ないし第二譲受人のどちらかが登記を備えれば、登記を備えた者が確定的に元の所有者から所有権を取得する。本問においては、第二譲受人Fが乙土地登記を備えている。したがって、Fが乙土地の所有権を取得し、Dの乙土地所有は認められない。
(3) 以上より、DのFに対する乙土地所有権移転登記請求は認められない。
2 DのFに対する上記請求が認められないことから、DE間乙土地売買契約に基づきEが負う、目的物の対抗要件を備えさせる債務は社会通念に照らして不能である(412条の2第1項)。そのため、Dとしては、上記債務が履行不能であることを理由として、債務不履行に基づく損害賠償請求権を有していること(415条2項1号、同条1項)、この債権の保全のために、EF間代物弁済契約を詐害行為として取り消し(424条の3第1項、424条)、乙土地登記をE名義とするよう、詐害行為の相手方たる受益者Eに請求することが考えられる(424条の6第1項前段)。
なお、詐害行為時において、DがEに対し、売買契約に基づく所有権移転登記請求権を有していることから、この特定物債権を被保全債権として詐害行為取消権を行使することも考えられる。責任財産の保全という詐害行為取消制度の目的からすれば、被保全債権は責任財産を保全することにより担保される金銭債権であることが必要となる。特定物債権は金銭債権ではないが、債務不履行によって金銭債権たる損害賠償請求権が発生すれば、被保全債権足りうる。そのため、詐害行為取消権行使時に債務不履行に基づく損害賠償請求権が発生していれば、債務不履行に基づく損害賠償請求権を被保全債権として、詐害行為取消権を行使することになる。したがって、本問においても、前述の通り、債務不履行に基づく損害賠償請求権を被保全債権として詐害行為取消権を行使する。
(1) 本問で詐害行為取消しの対象となるのは、EF間代物弁済契約である。元の債務額に比べて代物弁済の目的物の価額が過大であるとの事情はないため、424条の4の適用はない。
代物弁済契約を締結し、当該契約に従って他の給付を行えば、元の債務が消滅する。そのため、「債務の消滅に関する行為」にあたり、424条の3が適用される。債務者は債務を弁済する義務があること、代物弁済によって債務の弁済という効力が生じることから、代物弁済が「債務者の義務に属しない」とはいえない。そのため、424条の3第2項ではなく、第1項が適用される。同項柱書は「次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる」と定めていることから、同項各号の要件に加え、424条の要件を満たすことで、代物弁済契約を詐害行為として、詐害行為取消請求をすることができる。
(2) 「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済をすることができない」ときに詐害行為が行われたといえるか (424条の3第1項1号)。ここで、「支払能力を欠く」とは、財産信用労務による収入を考えても債務の弁済ができないことをいい、「一般的」とは、債権者全体に対し履行ができない状態を意味し、「継続的」とは、突発的な出来事による資力の喪失ではないことをいう。
EF間代物弁済契約がされたとき、債務者Eは、債権者FGから借金をしているが、弁済をできない状況にある。したがって、債権者全体に対して履行ができない状態にあるといえる。また、弁済の見通しもなく、乙土地以外の財産も信用等もなかった。そのため、財産信用労務による収入を考えても債務の弁済ができない状態にあり、また、資力の喪失は突発的な出来事によるものではないといえる。したがって、「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済をすることができない」状態で、EF間代物弁済契約をしたといえ、この要件を満たす。
(3)詐害行為が「債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものである」といえるか(424条の3第1項2号)。
Fに乙土地登記を備えさせれば、EのDに対する債務が履行不能となること、及びGの債権について弁済できなくなることを、EはFに伝え、Fは代物弁済契約を締結することを了承している。したがって、E及びFは代物弁済契約を締結すれば、債権者D及びGの債権が回収できなくなることを知りながら、同契約の締結をしたといえ、「通謀して他の債権者を害する意図をもって」代物弁済契約を締結したといえる。
(4) 前述の通り、DはEに対し債務不履行に基づく損害賠償請求権を有しているため、「債権者」(424条1項本文)に該当する。ここで、債務不履行に基づく損害賠償請求権が生じたのは、EF代物弁済契約に基づき登記がされ、EのDに対する債務が履行不能となったとき、すなわち、詐害行為後である。そのため、詐害行為の「前の原因に基づいて生じた」(424条3項)といえないのではないかが問題となるも、そもそも売買契約の締結が被保全債権の発生の基礎となる事実関係といえるため、当該債権は、「前の原因に基づいて生じた」といえる。また、当該債権は「強制執行により実現すること」ができる(424条4項)。EF間代物弁済契約により、Eは唯一の財産である乙土地を失い、債権者D及びGの債権が回収できなくなっていること、このことをE及びFが知っていることから、「債務者が債権者を害することを知ってした」(424条1項本文)といえ、また、受益者が「その行為の時において債権者を害することを知らなかった」にあたらない(424条1項ただし書)といえる。そして、代物弁済契約は「財産権を目的としない行為」にはあたらない(424条2項)。
以上より、424条の要件も満たす。
(5)Dは、受益者Fに対し詐害行為取消権を行使し、EF間代物弁済契約を取り消し、債務者Eの下へ乙土地の登記を移転するよう請求することができる(424条の9参照)。
ここで、債務者Eの下ではなく、債権者Dの下へ登記を移転させることができないかが問題となる。
詐害行為取消制度の目的は総債権者の共同担保たる責任財産の保全を目的とするものであるから、特定物債権者は目的物自体の登記を得ることによって自己の債権の満足を図ることはできない。したがって、特定物債権者が自己の下へ登記を移転することを要求することはできないといえる。424条の9が金銭の支払い及び動産の引渡しのみを規定するのも、この理由による。
したがって、Dは、Fに対して、債務者Eの下へ登記を移転するよう請求することができる。
以上
※Eの下に登記が戻ってきたことを理由に、Eに対して移転登記請求ができるかが問題となる
→特定物債権は、履行不能になったからといって、債務不履行に基づく損害賠償請求権に転じるわけではなく、特定物債権は履行不能、別途債務不履行に基づく損害賠償請求権が生じるという考え方をとる
→本問だと、Eのところに登記が返ってきたのだから、EはDに登記を移転することができる=社会通念上履行不能とはいえない?
→詐害行為取消は絶対効(425条)なので、債務者との関係でもEF間代物弁済契約は取り消されている
→とすると、受益者Fへ登記を移転する債務もあるから、債権者Dに対して登記が移転できない、という理屈は成り立たない(前提となる代物弁済契約が消滅している)
→でもこれを認めると、本文で書いた特定物債権者のところへ直接登記もどせないという判決の趣旨と抵触する
→どうしたもんか
・責任財産の保全という目的に基づいて登記が債務者のもとにあるので、責任財産としての処分以外認めないという理論構成
→権利濫用構成
・そもそも前提の「転形」をとらないという理論構成を捨て、「転形」で処理する(潮見先生の立場を捨てるという…)。もう移転登記請求権はなくなっているという整理