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【鑑賞記録】DA PUMP『U.S.A.』感想と解説

 2018年、DA PUMPの『U.S.A.』がヒットしました。ヒットの最大の要因は、「人気が落ちていたDA PUMPが、もう一度ブレイクした」という痛快なストーリーにあり、複数世代を巻き込む社会現象となりました。

 それにしても、EXILEのHIROといい、DA PUMPのISSAといい、日本の男性ダンサーは往生際が悪いですね。見習いたいです。

『U.S.A.』の歌詞

 そんなストーリーも魅力的ですが、私が最も衝撃を受けたのは、この曲の歌詞です。タイトルは『U.S.A.』ということなので、アメリカの華やかさとか、アメリカへの憧れを歌ったものかと思ったら、真逆でした。

 たしかに、歌詞の中には、「アメリカ人のヘアスタイルを真似した」とか、「アメリカの音楽に夢中だった」など、アメリカ文化への憧れが語られます。しかし、それはすべて過去の思い出です。

「昔はみんな、アメリカに憧れたもんだよ」

 と、数十年前を回想しているのであり、現在、憧れているのではありません。むしろ、この曲では、「アメリカ」というワードを「ダサい」要素として取り入れているのです。

アメリカ観の変化

 日本人がアメリカに憧れなくなった。これは劇的な変化です。

 戦後、あらゆる面で日本はアメリカの真似をしてきました。それは、音楽では特に顕著で、ロック・ソウル・ジャズ・ヒップホップなどが次々移入され、ジーンズを穿いてステージに立ったり、歌詞も英語で歌ってみたりと、戦後の音楽シーンは、まさに「アメリカかぶれの見本市」だったわけです。

 ところが、社会全体を見渡して、もうそんなアメリカかぶれは見当たりません。若い世代はアメリカに対する敗戦コンプレックスなど抱いていませんし、同時多発テロ以降、アメリカの繁栄に揺らぎが見えはじめ、治安の悪さなど、メディアでアメリカの暗部が取り上げられるようにもなりました。日本人にとってアメリカは、もはや外国のひとつにすぎません。

 アメリカ観は、『U.S.A.』で語られるように、「だいぶ変化した」と言ってよいでしょう。

エール

 そんな、「文化的アメリカ依存からの脱却」が進む一方、若いころアメリカに憧れ倒した世代からすると、それは少し寂しくもあります。

「あんなに魅力的に見えたアメリカが衰退していく」
「今の子って、アメリカを時代遅れだと思っている」

 切ないですよね。そんな世代の気持ちを代弁したのが、『U.S.A.』です。

「もう一度、カッコいいアメリカを見せてくれよ!」
「俺たちは、今でもアメリカ好きだぜ!」

 日本人にとってアメリカは、ずっと遥か遠くにいる憧れの存在でした。そんな日本人が、遂にアメリカへ、「がんばれ」とエールを送るようになったわけです。すさまじい逆転現象です。

もうひとつのアメリカ

 この曲は、たしかにアメリカへのエールを歌った曲です。しかし、この「アメリカ」には、もうひとつの意味が重ね合わされています。

 昔は人気だったが、勢いが衰え、もはやみんなが憧れなくなったもの。そんなアメリカとそっくりの存在が、もうひとつ、この作品には関わっています。

 それは『U.S.A.』を歌うDA PUMP自身です。

 DA PUMPは20年ほど前は大人気でした。しかし、その後、人気は低迷し、芸能界の中でほぼ消えてしまいます。しかし、DA PUMPは小さなステージなどをこなしながら活動を続け、この『U.S.A.』のリリースにこぎつけます。この曲は、自分達の現状を「アメリカ」という言葉に置き換えた歌なのです。

「俺たちのこと忘れてただろ!でも、もう一回売れること、諦めてねーぞ!」

 アメリカを歌う歌詞の背後に、彼らのそんな意地が込められています。

気骨

 そして、実際に『U.S.A.』はヒットし、DA PUMPの人気は復活しました。曲の内容とミュージシャンのリアルな心がリンクし、多くの人が共感した結果です。

 一度消えた芸能人が再び売れるのは、最初に売れるより難しいと思います。でも、DA PUMPの看板を下ろすことなく、それに再び明りを灯した彼らは気骨の塊です。

「人の心を揺さぶるのは、音でも言葉でもない。それを放つ人間の、悲愴感たっぷりの意地なんだ」

 そんなことを、この曲に教えられました。

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山田星彦〈文芸・写真〉
過去にたくさんの記事を書いています。マガジンに分類しているので、そちらからご覧ください。メンバーシップもやっています。誰でも見れるつぶやきも書いています。

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