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【小説】 言葉にならない だから 感じてほしい

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公開中の小説などを集めました。随時書き足しています。 「本物」を目指して描いた作品をご覧ください。 オリジナルのショートショート、短編小説、長編小説、ドキュメンタリー、エッセイ集…
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【小説】灯下に神座し

「将棋の神様と指すならば、6枚落ちで軽く負かされるでしょう」史上最年少で名人に駆け上った隼鷹(じょうい)名人は、マスコミを前に言い放った。何が彼を追い込んでいるのだろうか。圧倒的な努力。そして鋼鉄の心を持った男は、誰にも告げずに闇の対局場へ向かう。待ち受けていたのは牟田(むた)というアマチュア棋士だった。俗にいう「奨励会崩れ」の彼は、闇に沈んで研鑽を続けていた。「真の強さ」だけを求めて鬼と化した男を救い出すための戦いが幕を開けた。 神々が沈む闇 ▲76歩、△34歩、▲75歩

【小説】ガラクⅤ 雨上がりの蒼穹

ガラクはある日突然、自分が殺し屋と軍人の娘であることを知る。そして自らの身体にも、戦いのサラブレッドとしての血が流れていた。両親の師匠にして親代わりでもあるレックスの紹介で、民間軍事会社ガルーサ社で軍人としての第一歩を踏み出す。そこで待っていたのは、死んだと言われていた母ゼツだった。最新鋭の戦闘機でやってきた母に連れられて、中東のアルバラ共和国パルミラ基地を目指す。基地を目前にしてパルミラの手練れに囲まれるが、父ラルフと仲間の機転で切り抜けることができた。懐の深い司令官クリス

【小説】漆黒の焔佇むところ

前作で「焼き魚食道」を大成功させた文月は、いくつかの案件を片付けた後地域のコミュニティ改革に参加していた。そんなある日、突然の来客から依頼を受けた。相手は経営が苦しい、地域の百貨店だった。東京の老舗百貨店でさえも、支店を閉店しているという。正直なところ百貨店など時代遅れだと思っていた文月だが、一度クライアントになれば全身全霊で調査を始める。そして必ず勝たねばならない。彼が今回目をつけたのは、なんと ─── 1「本日はご来店いただき、まことにありがとうございます」  ショーウ

【小説】紅魔の時(こうまのとき)

2045年。人々は平穏な日常を送っていた。 しかし、その裏では、人知れず異変が始まっていたのだ。 突如として不可解な超能力を発現する者が現れる。 テレパシー、念動力、予知能力…それらは、まるで異世界にいるような現象だった。 高校に通う、平凡な日常を送る紅あかりもまた、その一人だった。 ある日彼女は激しい頭痛に襲われ気を失ってしまう。 目を覚ますと周囲の音が異常に大きく聞こえ、他人の思考が頭の中に流れ込んできた。 混乱するあかりだったが、次第に自分がテレパシー能力を手に入れたこ

【小説】絵姿は延びに伸びて

憂鬱になると狭いところへ籠る癖がある絵描きは、自分の世界に浸り何かが降りてくるのを待っていた。冷えた身体の芯には、暖かく照らす光を秘めて現実との差に悩んでいた。夢の世界なのか、過去の記憶なのか自分を突き動かすイメージを形にするために苦悩する。人生にはいくつか関門があって、タイムリミットまでに通過しなくては次はない。追い込まれた彼はまた暗闇に身を横たえた。精神が弛緩し、海の底に落ちていくと、不可思議な現象に身をひるがえしイメージが形を成していく。 1 暗くて狭い空間に、柔らか

【小説】どうせ、うまくいくから歌ってみな

パソコンが友達の、イケてない男がインターネットで奇妙なサークルに出逢った。「どうせ、うまくいくから歌ってみな」が合言葉のカラオケサークルだった。酷い音痴の男は、スルーしようとしたが、なぜか幸せを感じ始める。最新技術で音痴を修正してくれるマイクを使い、歌い始めると待っていたのは未知の快感だった。同じ悩みを持つ者たちが集まり、脳には幸せ物質が満たされ歌も悪くないかもなどと思い始めたとき、違和感を感じた男は本当の幸せを見いだすのだった。 1 薄暗い部屋には電子部品が散乱し、グレー

【小説】至極清閑な暮らし向き

出逢ったのは、余命3か月の銀行員と好奇心旺盛な小説家、そして協調性のないマッドサイエンティストだった ─── 余命宣告を受けた小曾根は、家族と別れ独りシェアハウスを探す。誰も入居していなかった物件を押さえ、入居日を迎えた。孤独を愛する者たちと、心に闇を抱えた現代人の奥底に眠る垢のような、わだかまりを共同リビングのテーブルに広げていく。  本当の孤独を知っていますか。  寂しさではなく、至高の孤独を。  自分の時間をきっちり分けられる人こそ孤独を友とし我が物とした、人生の達人

【小説】色をつけ事を触れる

病弱で高校を休みがちだった北迫は、死に物狂いで勉強して志望校合格を果たす。大学に入ってからも、命を削るように勉強を続けて司法試験合格を果たした。だが余命宣告を受け、病床で人生を振り返る。そんなとき「来世からのメッセージ」に出逢った。 1 白い壁に黄色い光が差し込み、窓際に暖かい柔らかな空気を感じる午後、退屈しのぎに分政経の参考書についていたCDを流し、聞きながら天井の模様をぼんやりと眺めていた。  眠気を感じ始めると、教室の光景が瞼に浮かぶ。  医者が言うには「水頭症」とい

【小説】花影の星屑(かえいのほしくず)

巨大な自然石がそそり立つ、鏐(しろがね)ノ川巨石には、古い伝承が数多く存在する。超自然的な魔術を操る者、闘いに飢えた眼をギラつかせる者、虚ろな目で彷徨う者。それぞれが、伝承の桜を求めて毎年この地を訪れた。その桜は風景を透かす無色透明の花弁に光を湛(たた)え、この世のすべての理を司るとされる宝玉を産み出すのだった。それぞれの胸に抱いた思惑が交錯し、そして白銀の男が宝剣を携えて現れる ─── 1 まだ肌寒い朝の風を受けて、草の露が揺れる。  獣道の草を踏みつぶしながら、キラキラ

【小説】満腹の親しみを込めて

忙しい商社マンで独り暮らしの斉木は、夕飯を大抵外食で済ませる。男が独りで入っても違和感がないラーメン屋だとか定食屋が多いのだが、タウン誌でクーポンを探していた時に気になる店があった。「一樹一河の一皿に出逢うレストラン」という一風変わった店名に、独り暮らしの寂しさも相まって目を留めたのだ。そのフレンチレストランは、名前の通り何から何まで常識を覆す店だったが、その裏には本物のフレンチを究めようとする思いがあった。 1 赤坂の高級レストランで、今夜も取引先の接待をするために早めの

【小説】星の宿り木

幻の街「薄紅町」通称レムノシティは気流の影響で深い霧に包まれ、年中曇り空に覆われている。入り組んだ街角に透けた女が立っていた。定職に就かず、取り得のない達也は、薄明るい町を彷徨い、迷い込んだ路地で奈巳に出会う。何かを訴えようとする彼女は、達也を「薄明のカフェ・ヴァニッシュ」へと導いた。灯りを辿り、星座を描くように生きる人々の中で、生きる意味を模索していく。 1 街は蜃気楼のように朧げなシルエットを現し、小高い山々の麓にうっすらと霧を帯びて、幽玄な空気に包まれている。  幻

【小説】不香の牡丹(ふきょうのぼたん)

11月に入ると、街のあちこちにクリスマスツリーを飾り始めた。サンタクロースは、世界各地に飛び本格的に活動を始める季節である。若いヴォリアラ・パクスロは、日本の子どもたちに夢を与えるために現れた。観光地や都市部のデパートで引っ張りだこの「本物」を、子どもたちは様々な思いで見ていた。サンタ服を身にまとい、プレゼントを渡す。記念写真を撮って握手やハグを求められる。極寒の雪深いフィンランドからやってきたパクスロは、優しい思い出を配るために日夜活動していたのだが ─── 1 朝夕の冷

【小説】星降る夜の、ののもん

星降る夜に佇めば、闇が明るく照らされて、心に燻る火が燃える。情熱を持て余している壇は、出口のないトンネルの中にいた。果てしなく続く、まっすぐな道。行く先は死。道を外れれば闇。人生は、そんなものではないはずだ。星を見つめ、大地を踏みしめ、指さした星が心を震わせる。星を掴みたい。いや、一歩踏み出せればいい。毎日積み重ねてきた単調な日々の軌跡が、世界を暗くしていた。ある日、夢の世界を漂う星に降り立った壇は、衝撃的な出逢いに心を奪われた。 1 裏山の丘の上。  海を見渡す高台に、檀

【小説】ニイトブレインSAKUI

ポケットの中をガサガサとまさぐると、一枚の宝くじが出てきた。ニートの作井でも、宝くじの当選確率は平等である。「宝くじの日 お楽しみ抽選」白地に赤の、のぼりが売り場にはためいている。近づいていくと、敗者復活のチャンスを1枚の紙切れに託したのだった。なんと1等を当て、3億円を手に入れた彼は、次々に接近する誘惑を退け、何に使うべきか考えた。そんな時、脳裏に浮かんだのは、いつも自分を蔑んでいるくせに、愚痴を言いだらしなく大酒を食らうサラリーマンたちだった。そして父の会社の株を買い漁る