冷凍保存した関係性

「凍りついた心には太陽を」

流行り歌を口ずさみながら凍らせたお餅をレンジで温める。実家は''街一番のお洒落な臼屋さん''だから年末についたお餅が大量に冷凍庫に入っている。

山田臼店

冷凍保存したとして、美味しさはさほど変わらない。素材の味なんかたいしてわからない僕は、調味料の味こそ美味しさだなんてまだ思っている。ちなみに、大人な僕はお洒落なライフスタイルを拗らせて、お餅をオリーブオイルとチーズと少しの醤油で嗜むけれど、みなさんはどうだろうか？

ちなみに、凍りついたお餅はレンジで温める。太陽で温めていたらとてもじゃないけど時間がかかると思うのだけど、みなさんはどうだろうか？

普段は学校の先生をしているのだけど、学校の先生の働き方のよいところは長期休みがちゃんと長期休みであることにある。夏休みは35連休、冬休みは14連休ぐらいある。大学生ぐらい休んでいる。そんな働き方だからこの冬休みもたくさん遊んで、たくさんの人に会った。

正月に食べたお洒落な草

毎年決まって1月2日には初蹴りをする。初蹴りが蹴り納めだなんて奴もいれば、解散の時にかける言葉が「よいお年を」だったりする奴もいる。みんな太って走れなくなっていくし、ちゃんとおじさんになっていく。それでも1年に1回ちゃんとみんなが集まるのは、よい青春があったからなんだろうと思う。だからあの日PKを外して実らなかった青春もちゃんと青春なのだ。

この年になると友達との関係性が移ろっていくことを感じる。家族ができたり、遠くにいたりで毎日顔を合わせていたはずなのに、ずっと連絡を取らない友達になることがある。友達であったかも忘れてしまうぐらい疎遠になってしまうことがある。冬休み、せっかく時間ができたんだからと久しぶりに会いたい友達に手当たり次第に連絡をする。スケジュールいっぱいに埋まった予定を見て寂しさを埋めるのに、直前になって思うのだ。

「あれ、どうやって喋ってたっけ？」

人見知りというわけではないんだけど、離れていた時間の長さはどうやら喋り方や距離感を忘れさせてしまうのだ。だから話し方が余所余所しくなったり、ぎこちなくなったりする。大人になるにつれて一人でいることを好むのは、その気まずさが怖くて向き合いたくないという側面もある。

そして思うのだ。

「なんかめんどくさいな」

スカスカの手帳を埋めるために自分から会おう、喋ろうって言ったのに、待っている時間が怖くて理由をつけてドタキャンしたろかなという気を起こすことがある。

「久しぶり！元気？」

「元気よ！どう？」

「元気。仕事忙しい？」

「そうだね、ちょっと忙しいかな」

「そっか、だよね。俺も」

「だよね」

（あれ、次何喋ったらいいんだっけ？天気？最近寒くなってきたとか？彼女できた？とか？M-1見た？ウエストランド優勝したけど、結局あの後一番見てるのヨネダ2000なんだよね？令和ロマンもいいよね。W杯結構見た？モロッコ好きだったわ…なんだ、何喋ればいいんだっけ、、距離感思い出せねー…あぁもういいや！）

「ごめん、めちゃくちゃ久しぶりに喋るからさ、凄く緊張してるの今。別に人見知りとかではないんだけど、いつも何喋ってたっけ？なんか聞きたいことたくさんあった気もするし、なんにもなかった気もする」

「俺も」

「だけど、めっちゃ喋りたかったのよね。久しぶりに何してるか凄く気になったりしてた」

「恋？」

「かもしれない」

「うるせーよ」

「で、どうだった？今年」

気付いたら何時間も経っていて、話をしている間に距離感を思い出した。

どれぐらいの距離感でいたのかを忘れて怖くなることがある。会っていなかった時間があまりに長いと凍ってしまったような固さや冷たさもある。

「凍りついた心には太陽を」

凍りついた心は、温かった記憶が溶かしてくれると思っている。そんなとてもきれいな言葉を思いついたからどんどん引用してほしい。あの頃がちゃんと楽しかったから、溶けてもちゃんと楽しくあれる。お餅が解凍しても美味しいように、ちゃんとあの頃を思い出せる。ちなみに僕はお餅をオリーブオイルとチーズと少しの醤油で嗜むけれど、みなさんはどうだろうか？

だから今年も会う前のちょっとした緊張を乗り越えて色んな人に会いに行きたい。

明日から始まる新学期、一緒に過ごせる最後の学期になる。会わない時間はぎこちなさを生むけれど、ちゃんと思い出すから喋り掛けてほしい。明日は元気に学校に来てほしい。

早めに書き初めをしないと、だんだんとめんどくさくなって書かなくなるから勢いで書いてみた。ウイイレで負けた奴がみんなの書き初めをやる賭け事で、教室に5枚の僕の字が並んだあの頃、先生はちょっとしたいたずらを許してくれた。

明日うちには同じ書き初めが並ばないことを祈る。