177.和式と洋式
定期的にトイレで大をするが、そのトイレに対して"こうあって欲しい"という思いがある。
まずトイレは極力綺麗であって欲しい。そして洋式である事。ウォシュレットが完備されている事。この3つ。汚くて和式(=ウォシュレット無し)となると、余程の緊急事態じゃない限り、そこで排便する事を諦める事もある。
洋式を欲する理由は単純に楽だからだ。下手すりゃ糞を垂れながら寝る事も可能だろう。一方、和式の場合あられもない姿にならなくてはならない。
良い大人が足首までズボンを下げ、ケツを丸出しにしながらしゃがむという、インテリジェンスを放棄した姿を求められる。そしてその姿になって初めて排便を許されるのだ。
それだけでも十分精神的な苦痛を強いられる事になるのだが、その次は身体的苦痛が待ち受ける。まず臭気。便の臭気が立ち上り即座に鼻腔へ到達する。洋式と違い便が水の中に入っていないのでその匂いは強い。
そして足への負荷。全体重が太ももから足首にのしかかる。下手すりゃ排便後に足が痺れる事だってある。そうならない様に私は排便中に何だかよく分からない目の前の銀の配管に指を引っ掛けて足への負担を少しでも減らす工夫をする。分かるだろうか。工夫をしているのだ。工夫をする排便って何?という事だ。
いわゆるこの"うんこ座り"というスタイルは古来の日本から行われてきた伝統的なスタイルではあるが、古来の日本といえば侍の文化。それに対して侍がケツを丸出しにして背後を取られる状況があったというのは如何なものだろうか。
例えば排便中に背後を狙われた侍がいたとする。それを懐刀で防ぎ、反撃に転じようとした所、足の痺れで上手く立ち回れず殺められる。なんて事態を引き起こしかねない。いや、史実に記されてないだけで、それが原因で果ててしまった方も実際にいたかもしれない。
割と古(いにしえ)の文化というか、古来の和の文化が織りなす様式美というものは好きなのだが、この排便に関する文化だけは私のスタンスとは合わない。合理性に欠けるというか、もっと何とかならんかったのかという思いがある。
だがふと『(いや、待てよ)』と思いとどまった。古来の文化というのは一見何気ないものに見えて、現代の科学で検証すると合理的に構成されている事が往々にしてある。念の為、和式のメリット、デメリットというものを調べてみた。とある業者のサイトに載っていたのだが、それが以下である。
⚫︎和式のデメリット
・悪臭がしやすい ・・・ 槽(そう)が浅い為、悪臭がしやすい
・水はねしやすい ・・・ 槽が浅い為、水が流れる時に水はねしやすい
・姿勢がきつい ・・・ 妊婦さんや介護が必要な方、足首が固い方には不便
・流れが悪い ・・・ 水勢のみを利用した洗い出しの方式。吸引する作用がない。一度詰まると大抵取り壊してからの修理になる
まあ私が危惧した通りか、それ以上のデメリットがある。というか、一度詰まると取り壊すというのは何事か。
⚫︎和式のメリット
・掃除が楽 ・・・ 一緒に床も洗える
・衛生的 ・・・ 便器が肌に触れない
・健康によい ・・・ 毎日立ったりしゃがんだりするので足腰の筋力が衰えない
どうだろうか。頑張って褒めているが、ちと無理がなかろうか。特に健康の項目。一日一糞の場合、スクワット1回分じゃないか。
結局、合理性に欠ける文化だった。
だが、私は思った。《あまりに否定的な言葉が並び過ぎている》と。今後、和式と私の好みがリンクする事は無いであろう。だがここまで向き合ったのだ。せめてもの餞(はなむけ)に和式に対してポジティブな言葉を並べてこの文章を終わらせてあげたい。
なので考えた。頭を捻った。何度も無理だと思ったが、色々考えていると1つ出てきた。
それは佇まいというか、そのフォルムだ。
洋式はドアを開けると便座がこちらを向いている。着座する場合は進行方向とは逆を向いて座らなくてはならない。それに比べ和式の場合、ドアを開くと進行方向そのまま着座する事が出来る。洋式が守りだとしたら、和式は攻めの姿勢。呉越同舟感がそこにはある。
床から一段せり上がり、その上に鎮座している和式の便器に跨がれば『さあ行きましょう』と言われている気がする。《やる気》というものが感じられる。
着座すればそこはまるでコクピット。フォルムもよく見りゃ無駄の無い作りになっているではないか。狙ってデザインしたかどうかは分からないが、そのフォルムは流線型で風の抵抗を受けない仕様になっている。これが宇宙へ旅立つ小型船だとしたら相当な速度を出すであろう。そんな機能美、存在感がある。
そんなポジティブな側面に気付いた。
どうだっただろうか。ちゃんと餞の言葉になっていただろうか。なんというかその、私だって多少無理があるという事は分かっている。だが私なりに彼らの良い所を見つけたつもりだ。
和式と洋式の2択。使う使わないは自由。好みの問題だが、もしこれから和式を使う場合は是非、想像力を大いに働かせ、このコクピット感も堪能していただければと思う。
おわり